15万打リクエスト

□しかしそこには道があり、
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『喧嘩吹っ掛けるの止めろ、
鬱陶しい』

あの日から2週間が経った。
今も尚耳に残る声は、不器用で怪力なシズちゃんに彼女が出来たと聞いた日のこと。
記憶としては鮮明なのに、昔のことのようにすら思える。
長い。14日という半月程の短い時間を、こんなに長く感じたことは無かった。

あれから、一度も昼休みを一緒に過ごしていない。
俺から挑発することもめっきり無くなった。あの時目の前で泣いてしまったから、と言うのもある。
でも、俺のことは忘れて欲しくなくて、他校の不良を仕向けたりはしているのだけれど。

ただ、昨日は久しぶりにシズちゃんと喧嘩をした。9日ぶりくらいだった気がする。
喧嘩の発端は、たまたま肩がぶつかってしまった、なんていう馬鹿みたいにちょっとした理由だ。
喧嘩するのが嫌なら、何かしら言わずに通り過ぎていくだけで良いだろうに。何かストレスでも溜まっていたのだろう。
…それでも、嬉しかった。
喧嘩という唯一の繋がりが、未だに消えていないという事実が。

こんなことを考えるなら、もう想うことをやめていれば良かったのに。
そう後悔しても、きっともう遅いのだけれど。



そんなある日だった。
学校へ着き、廊下を歩いていたとき。

「臨也」

唐突に呼びかけてきた声は、間違いようもない静雄だった。
何なんだ、と思い振り返ろうとしたと同時、顔の横に風が流れ臨也は咄嗟に避ける。
それが何かと確認すれば。

「…シズちゃん、何投げてるの…?」

「消しゴム。それくらい見れば分かるだろ」

消しゴムに間違いはないが、床に勢いよく叩きつけられた消しゴムは、ぱしん、と甲高く激しい音で跳ねた。
普通、消しゴムは落ちたくらいじゃこんな音はしないし、こんなに跳ねない。

「消しゴムは投げて使うものじゃ無いよ?分かってる?」

「当たり前だろ」

にや、と不敵な笑みで言った静雄に、胸が苦しくなった。
彼から喧嘩を仕掛けてくることは殆ど無い。臨也としても、拒否の意は無いわけだ。
と言うわけで、2限目まで続く喧嘩を繰り広げた。
最近鬱憤が溜まっているのだろうか。そう思うくらい、彼は臨也をしつこく追い掛けた。

疲れるけれど、楽しい。
だから、諦められない。
でも絶対に、好き、なんて言えない。
シズちゃんには、幸せになって欲しいから。



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