15万打リクエスト
□GOOD DAY
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折原臨也。
副業として情報屋なんていう奇異な職に就いている、裏社会ではそこそこ名の知れた奴。
情報を対価に多額の金を要求するものの、自身の為なら損は惜しまない。
人間の欲望をかき集めて人型にしたような奴で、
人類愛を謳いながら人間を見下す、鳥肌の立つような存在。
…というのが、臨也の表の顔。
***
「最悪…!馬鹿にしないでよ、私がどんな思いで書き込みしたか知らないくせに…!!」
「そうだぞ、手前!最初から死なないつもりで俺たちを騙して!!」
ハズレ。ハズレ。今日もつまらなかった。
心中でバツ印を付けながら、臨也は笑う。嘲笑う。
「でも君たちは一人で死ぬ勇気もなくて、こうして一緒に死ぬ仲間を探しているんだろう?
そのくせに、最悪だの裏切られただの、ムシが良すぎるよ」
「…っ、でも…!」
「大体、失業したから死ぬとか、恋人に振られたから死ぬとか、君たちどれだけ死をなめてるのかな?酷い酷い裏切りでもあったならまだしも。
世界にはさ、たった一人で生きてる子供とか、戦禍に巻き込まれてる人とか、沢山いるんだよ?
まぁ、俺は君たちも戦禍の人間も無関係だけど。
だけどね、君たちごときの理由で死ぬ人が沢山いたら、神様も堪らないと思うよ?
死ぬんなら、その貧困の人たちに財産寄付するとか、俺に託す手続きとかしてから死んでもらえると有り難いな」
まるでそういう機械かのように饒舌に語った臨也。ケラケラと笑ったその目は、全く笑っていない。
ぞわり、と、芋虫が這うような感覚が、二人の身体中を支配する。
目の前にいる奴は、本当に人間なのか――そんなことすら疑ってしまう。
自棄になった男が、ソフトドリンクのグラスを掴み振り上げた。中の氷が跳ね、僅かに残っていたコーラがソファや机に飛び散る。
びくり、と肩を跳ねさせた女に対し、臨也は不敵な笑みを浮かべたまま。
…結局、男の手からグラスが投げられることはなく、机に無造作に置かれただけだった。
男はそのまま無言で部屋を出ていき、それに続いて女も足早に部屋を出ていった。
ハズレハズレ。
つまんないつまんない。
そんなことを思いながらも、先刻カラオケボックスで起きたことすらも臨也の頭からは排除されようとしていた。
一緒に死にませんかぁ??
そんな軽く重い言葉で臨也の元に集まった二人の人間。失業したという男と、4年付き合った彼氏に振られたという女。
結局死と真っ当に向き合っていなかった二人。
今までも幾度も自殺志願者サイトに書き込みをしてこうしてきたものの、依然として臨也の希望の人間には巡り会えていない。
「ま、集団自殺しようとする時点で、死ぬことをなめてるだろうけどねぇ」
一人でぽつんと呟きながら、臨也は歩を進める。
この時間帯には、あいつがいる。
大嫌いな、でも大好きな大好きな。
会えるだろうか。
どきどきしながら、臨也は池袋を歩く。
平和島静雄。
臨也が探している、大嫌いな、でも大好きな大好きな恋人。
付き合っているのだけれど素直に誘えないのは、彼が仕事で忙しいかもしれない、迷惑かもしれない、と考えてしまうから。
だから、偶然を装って池袋を探し回る。
会えなかったら仕方ないし、会えたらその日は良い日だ。
…と言っても、会えなかった日のテンションは低いことこの上ないのだけれど。
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