15万打リクエスト

□愛し方
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情事の後のベッドは、生温い体温と精液の臭いがする。
そのベッドに頭を埋めた臨也は、直ぐ近くで昇る紫煙の香りを肺一杯に吸い込んだ。

3ヶ月程前から、来慣れたこの部屋。すぐ隣で煙草を吸う静雄の家だ。
勿論、情事の後と言うからには、その前もある。
臨也と静雄は、身体の関係にあった。

「シャワー、浴びてくる」

「ああ」

ベッドから抜けた臨也は、先刻脱いだ服を抱えて、バスルームに歩いた。


ざぁざぁとシャワーの水が床に落ちる音の中、臨也はバスタブに腰を下ろして動けないでいた。
先刻犯された秘所が、ズキズキと痛い。
次いで、彼に噛まれた首筋やら、散々指で弄られた胸の突起やらがジリジリと痛んだ。

どうしてこんな関係になった?
どうしてこんな関係にしかなれなかった?
反芻しても、勿論答えは出ない。


***

3ヶ月前。
その日もいつもの喧嘩で、路地裏に入り込んだ。

「行き止まりだ、臨也」

「、…これくらいで、シズちゃんに殺られるとでも思ってるの?」

ヘマをした。まさか、行き止まりの場所に行き着くなんて。
目の前には、バーの看板を片手に提げて、露骨に苛立ちを滲ませる静雄がいて。
絶対絶命、久しぶりにそう感じる。
どうにか、抜け出さなければ。どうにか…

…なのに。
突然、静雄の手から看板が激しい音をたてて滑り落ちた。
その音に気を取られた一瞬。
静雄の手が、臨也を壁に押し付けた。

「なっ…痛!」

肩を強く掴む手は締め付けるように痛い。
振りほどこうと足掻いた瞬間、静雄の歯が首筋に突き立てられた。
痛い。痛い。痛い。
でも弱音は吐きたくなくて、必死で歯を食い縛る。
離された静雄の唇についた血は間違いなく臨也の物で、恐怖心が沸き上がった。
…しかし同時に、腰の奥が、ぞくり、ともした。

そのまま、乱暴に犯される。
痛くて痛くて、涙が止まらなくて。
嫌だ、そう幾ら嘆いても、一向に離してもらえないまま、されるがままに身体を重ねた。


***

…でも、それ以降も池袋に訪れて、彼に犯されて、そんな関係が3ヶ月。
『嫌なら来なければいい。』それが出来なかったのは、
…出来なかったのは。

「シズちゃん――」

好きだから。大好きだから。他に理由などない。
彼に、相手にしてもらえる。喧嘩とセックスの間だけは、自分を見ていてくれる。
――例え、そのセックスは性欲処理のためだけだとしても。



それから、1週間後。
臨也は人間観察に来た池袋で静雄と遭遇し、散々喧嘩を繰り広げた後に静雄の家に連れてこられた。
いつもの流れ。ベッドに押し倒され、静雄の顔が目の前にくる。

「…シズちゃん、」

「なんだ?」

首を傾げた静雄へ、臨也は静かな声で問い掛けた。
ずっと、ずっと、問いかけたかった言葉を。

「何で、セックスするの?」

静雄は黙る。
短くて長い沈黙の後、ゆっくりと開いた口は、そこはかとなく苦々しく言った。

「したいから、だろ」

「…知ってる」

ずきん、と痛みを催した胸は隠して、嘲笑を浮かべて見せた。
…そうでもしないと、意味も分からないままに泣き出しそうだったから。



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