15万打リクエスト

□我侭、そんな愛。
1ページ/5ページ


「シズちゃん最悪!帰るっ」

臨也の半ば泣きそうな声に、静雄は焦りを隠せず、踵を返した臨也の手を掴んだ。
すっかり冷えきったその掌に心から申し訳なくなるのは、少なくとも自分にも過失があったから。


…というのも、事の始まりは1時間ほど前に遡る。
今日、臨也と会う約束をしていた。いわゆる、デートというもの。
待ち合わせ場所に予定の時間より5分早く着くように家を出て、その道程も、特に何も起きず順調だった。
…そう、途中までは。

大通りを歩いていた時だった。
背後から、車のエンジン音が唸りをあげて近づいてきていることに気がつく。
荒い運転してるな、と呆れを滲ませて思った時だった。
ガタガタ、ガサガサ、バキバキ。激しい音が静雄の耳を突いて、思わず振り返れば。

目の前には車。反射のように飛び上がり、間一髪。
静雄は車のフロントに転がった。
フロントガラス越しに見た、ひきつった顔をする男に見覚えはな…
否、ある。脳が必要無いと廃棄処分しようとしていた記憶に。
ほんの4日前、テレクラの代金の集金の際、あまりにも往生際が悪くて1発殴ってやった奴だ。
逆恨みに違いはない。垣根すら破って轢かれるほど恨まれる覚えはないけれど。
…勿論、そこで静雄の苛立ちのスイッチがオンにならない筈がない。

「何しやがる、手前…!」

車のフロントに乗り上げたまま振り上げた腕は、ガラスを殴り付ける。
飛散防止ガラスは、2度の殴打で粉々に砕けた。
ガラス一枚の壁すら無くなった静雄と哀れな男。

「お、お前が悪いんだ!お前が家に取り立てに来たせいで、息子と妻が実家に帰ったんだぞ、お前らのせいで…!」

「まぁ、なんだ。家族は大切だから、それは同情するけどな」

一呼吸置いた静雄は、に、と笑った。――笑顔、とは形容し難かったが。

「奥さんと息子ほっぽって色事にかまけた罰だろ?」

「…っ!ぎゃああああ!?」

割れたフロントから車内に飛び込んで、静雄はその男に無理矢理抜いたハンドルを投げつけ、シートを壊し。
回りの人間が通報したのだろう、警察が駆けつけ、どうにか騒動は収まった。

車を破壊した、という罪はあったものの、相手方が車で突っ込んできたという事実もあり、事情聴取の後解放された。
…しかし。

時計を見れば、約束の時間から30分も過ぎていた。
約束の場所まで急いで走ったものの、到着した頃には40分近く過ぎていて。
――もう、怒って帰ってしまっただろうか。だとしたら、せめて連絡でも…


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ