15万打リクエスト

□薬指に愛を
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「シズちゃん!」

背後からかけられた声に振り返れば、見慣れた漆黒の姿があった。
にこ、と飾り気の無い笑みを溢した臨也は可愛くて、自分もほとほと重症だとは思う。
静雄の隣に来た臨也は、速度を緩めた静雄と共に歩き出した。

「シズちゃんどっか行くの?」

「あ?…いや、ぶらぶらしてただけだ」

思わず言葉に詰まった。
今日の目的は、臨也の欲しそうなものを探すこと。
自分には大それたことは到底できない。
だから、当日まで秘密にしてサプライズプレゼントくらいはしてあげたい。だから、今知られるわけにはいかないのだ。

「…ふぅん、そっか」

一旦思案したような表情を垣間見てどきりとしたものの、その言葉に安堵の息を溢した。
話題を変えようと、静雄も臨也に話しかける。

「手前こそ、何しに来たんだ?」

「ん?仕事のついでに、シズちゃんに会いに」

ついでかよ、と突っ込めば、臨也は、ふふんと偉そうな、でも嬉しそうな笑みを溢した。

その笑みに温かくなりながらそれからもたわいのない会話をして。
そんな意味もないような時間が愛しい。
臨也といる。たった、それだけのことなのに。

臨也と喋る最中。
ふと目を向けた先に、店を見つけた。
そこで、数人の男女の若者が以前この店について話していたのを思い出す。
覗いてみる価値はあるだろう。そう思い、話が途切れたのを見計らって口を開いた。

「…じゃ、ちょっと用があるから、またな」

「え?…うん、ばいばい」

臨也に手を振って店に目を向けるものの、このまま店に入っては勘づかれるかもしれない。
面倒臭いが、遠回りするに越したことは無いだろう、と、足早に歩き出した。


シズちゃんの様子がおかしい。
臨也は、すたすたと歩き去る静雄を追い掛けるのも憚られて、足を止めたままその背を見送った。
あの様子では、きっと何か隠し事でもしているのだろう。
…この俺に?何を?

会った時、「ぶらぶらしてただけ」と言ったのに、さっきは「用があるから」と別れたのだ。
多分、本人もその矛盾に気がついていない。
それに、僅かに動揺していたのも間違いない。

どきり、と胸が騒いだ。
心配になってしまうのは、静雄が好きだから。
好きだから、以前は全く気にも留めなかった言葉に一喜一憂するのだ。
もっと、信じたいんだけど、な。

「…シズちゃんのばか」

呟いてみても、ああ?と機嫌の悪そうな声は返ってこない。手前に言われたくねぇ、としかめられた眉を見ることもない。
気持ち悪いくらい乙女な思考に溜め息を吐きながら、臨也はその場を離れた。




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