15万打リクエスト

□嘘つきセンチメンタル
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「本当に、折原さんと平和島静雄は仲が悪いですね」

普段は感情をあまり露にしない四木のそこはかとなく楽しそうなその声に、臨也はとりあえず笑みを返す。
粟楠との仕事に3日ぶりに池袋に来た臨也は、その最中問われた言葉に、いつも通りに返した。

「当たり前じゃないですか、彼と仲が良いなんて、言われたことがありませんよ」

笑って言った臨也。
すると、四木は含み笑いを溢した。
その笑みにドキリとしてしまいつつ、臨也は内心焦りながら平然を装って笑う。

「どうしたんですか、意味深な笑いなんかして」

「いや…
折原さんは嘘が下手ですね。嘘を吐くと、唇を閉じたときに力が入る」

そんな言葉に、臨也は思わず苦笑した。
四木はその様子を、やっぱり楽しそうに見つめる。

「いつも俺が嘘を吐いているみたいじゃないですか」

「そんなこと言ってませんよ」

はは、と笑った四木に馬鹿にされたと分かりながらも、やはり人間観察目線で見れば気に入らないとも言い切れない。
この状況を楽しんでいる自分も現金だと思いつつ、臨也は「そうですかね」なんて、曖昧に返した。



嘘が下手だなんて。嘘だとバレたのは四木さんが初めてだ。
仕事も終わり、そう思いながら臨也は歩を進めていた。

よく静雄と遭遇する場所には、やはり見慣れた奴の姿。
ぱち、と目が合い、その額に青筋が浮き上がった。

「臨也くんよぉ…まぁた性懲りもなく、来やがって」

「何に懲りろって言うのさ。
あ、シズちゃんの馬鹿さ加減にはほとほと呆れてるけどね」

そう嘲りながら、静雄の手が真隣のポールへ伸びたのを確認し、臨也は走り出した。
背後から鈍い音がして、直ぐに静雄の足音とあの獣の咆哮が続く。
地面に埋め込まれたポールが引き抜かれたのは、間違いないだろう。
背後を時たま確認しながら、離れず近づかず、臨也は池袋を走り回る。

『本当に、折原さんと平和島静雄は仲が悪いですね』

ふ、と頭に過った言葉。
知っている。解っている。痛いくらいに。
俺がいくら嘘を吐いても分からないくらい、シズちゃんは俺を見ていない。
嫌われている。

臨也は急ブレーキをかけると、静雄と相対した。
臨也の様子を不思議に思ったらしく、10キロはあるポールを鉛筆でも持っているかのように軽々と片手に持つ静雄も、足を止める。
立ち入り禁止の柵を乗り越えて入った工事途中の場所のため、人はいない。
警戒心剥き出しな静雄へ、臨也は冷笑とともに問い掛けた。


「もし、俺がシズちゃんを好きって言ったら?」


「――あ?」

きょとん、とした静雄の目。
その目は何処か迷っているようで、僅かな期待が生まれる。
…しかし、それも直ぐに踏み潰された。


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