15万打リクエスト

□コイビト
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「いざやぁあ!」

事務所の扉の向こうから響いた、勇ましい…否、けたたましい声に、波江の眉根に皺が寄った。
その声は、波江も池袋で聞いたことのある、平和島静雄の声。

「ちょっと…私は管轄外よ、平和島静雄なんか」

嫌そうに呟きながら、波江は自らの雇い主に冷たい視線を送る。
目を向けられた折原臨也は、ああ、と楽しそうに言うと、席を立って扉の方へ向かった。

平和島静雄と折原臨也は仲が悪い。
それは本人に訊くまでもない。あれだけ喧嘩をされれば、嫌でも分かる。

あの喧嘩に巻き込まれるのは御免だ、と冷ややかな目をしながら波江は、扉を開けられる瞬間を訝しげに見つめた。

…しかし。

「遅いんだよ、開けるの。
今日は迎えに行くって言ってただろ」

「ごめんごめん、これくらい許してよ」

――思わず、きょとん、とした。
仲が悪い。なんたって、昨日も喧嘩をして痣をつくって帰ってきたほど…

「あ、今日は帰って良いよ」

此方を向いて朗らかな顔で言った臨也に苛立ちすら覚えながら、
波江は整理を終えた書類をファイルに戻し、コートを取りに行く。
その間も、静雄と臨也の会話は波江の耳にも勿論筒抜けだった。

「で、今日は何処行くの?」

「特に決めてねぇ。臨也は行きたいとこあるか?」

「んー…特に無いかな。
俺は、シズちゃんと居れればいいや」

噎せた。
本当に、あれは折原臨也と平和島静雄なのだろうか。別の誰かが皮でも被って成りすましているのでは。
半ば本気で疑いながら、噎せたのを咳払いに隠して、波江はコートを羽織ると傍らの鞄を取る。
事務所から出るために、静雄が入ってきた扉の方を見て。
波江は思わず、石の如く固まった。

「…邪魔なんだけど」

「…ああ、すまない」

人前でキスなんかするな。
そう吐き捨ててやりたかったけれど、最早呆れの方が勝ってしまっている。
扉を出た波江は、再び唇を重ねた二人を見ないふりをして歩き去った。
あの二人のキスシーンなんか、見たくもない。

「誠二…」

大切な大切な愛してやまない弟を思い出し、代わりにその弟とのキスを思い描いて、波江は一人頬を染めた。



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