15万打リクエスト

□kiss me!
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その現場に辿り着いて、辺りを見回す。
――いた。静雄の隣には、女がいた。見たことの無い女。

俺はれっきとした恋人なのに、この状況はやはり出ていきづらい。
シズちゃんを疑いたくは無いけれど、やっぱり怖くて。

それでも息を飲むと、そこに近づいていった。
すると、静雄は気がついて此方に視線を向ける。一瞬にして、静雄が纏う空気が禍々しい物へと変貌した。

「やぁ、シズちゃん。女の子ナンパ中?」

「はぁ?手前には関係ねぇだろうがよ」

…何時も通りの会話。なのに、胸がドキリとしてしまったのは、こんなにも不安だから。
そしてこんなにも不安になるのは、それだけ彼が好きだから。

「関係、なくないし…」

苦し気に紡がれた声に、静雄は異変を覚える。
おい、と声をかけようとして、
唐突に目の前に手が伸びてきた。
何事かと思えば、それは静雄の真隣にいた女の物で。
敵対心剥き出しの目で見た臨也に、女は震える声を張り上げた。

「止めてよ!
静雄さんは不器用だけど、優しくて好い人なんだから…!」

――何なんだ、こいつ。
俺だって知ってる。
シズちゃんが不器用なことも、優しいことも、知ってる。
お前だけが知っているわけじゃない。

臨也は無意識のうちにナイフをその手に握っていた。
強く握り締めたグリップが悲鳴を上げる。
勢いのままに、ナイフを振り上げた。

…しかし、その刃を受けたのは、女の肌では無く。

「手前、なにしてんだ…!」

ナイフの刃は、静雄の手中にあった。
女に刺さる前の刃は、咄嗟に庇った静雄に握られて、その掌に僅かに血を滲ませていた。

「シズ、ちゃ……」

声が震える。
頭の中で、整理を終えた情報がパズルみたいにパチパチと組合わさって、ひとつの結論を生まれさせた。

泣きそうなのをぐっと堪えて、臨也はナイフを引ったくりながら叫んだ。


「シズちゃんなんか死ね!」


臨也はそう残して駆け出した。
静雄は追ってこない。
自分が一人で怒っていただけだと分かっていても、追い掛けてきて欲しい、なんて思うのは我が儘だろうか。

ある程度走って、臨也は足を止めた。

居ても立ってもいられなくなり、思わず逃げてしまった。
死ね、なんて罵倒、自分らしくない。

…でも、なら、あの女は何?

「かっこ悪…」

泣きそうなのを歯を食い縛って堪えた。
大丈夫、泣かないでいられる――


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