15万打リクエスト

□Sweet Taste
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臨也は、セルティへの依頼に、岸谷家へ来ていた。
今その依頼相手は居ないものの、その家主であり昔からの友人である新羅と喋っている。

「相変わらず喧嘩してるけど、よく飽きないよね」

「シズちゃんが俺を見ただけで嗅ぎ付けてくるんだから、仕方ないだろ」

はぁ、と溜め息を吐いて、新羅に出されたクッキーをかじる。
さくり、と軽い音に、甘い香り。それに加え、独特な風味が混じる。
嫌ではないが、市販で売っている物にしては万人受けしないような不思議な味。
一緒に出されたコーヒーで喉に流し込み、臨也はクッキーを食べようと手を伸ばした新羅に問い掛けた。

「このクッキー、何処で買ったの、本当に売り物?」

はたり。
新羅の手が止まる。
童顔気味な顔が固まり、ハッとしたように立ち上がった。
そのまま無理矢理に立たされると、玄関まで追いやられる。
状況が全くもって理解できない臨也は、不満を滲ませた声をあげた。

「は!?新羅なに考えてるの、ちょっと…」

「早く家に帰って!直ぐに電話で事情話すから、早く!!」

臨也は訳が分からぬまま、新羅に家を追い出された。
まぁ、依頼内容も告げたし、と仕方なく帰路につけば、すぐに新羅から電話がかかってきた。
歩きながら携帯に出れば、恐る恐るな新羅の声が電話口から響く。

「何なの、いきなり」

『さっきのクッキー、実は僕が作ったんだ』

「…で?なに?」

『ちょっと、薬が入っててね…』

予想だにしない言葉に、臨也の、意味を理解したくない声が漏れた。
皮肉にも、知らぬうちに新羅の実験に巻き込まれていた、ということか。
どんな薬だよ、と尋ねれば、新羅は言いにくそうに口を開いた。

『あんまり大通りを通ることはお勧めできないんだよ』

「だから、なに」

自分の身の上に降りかかる災難を渋られても困る。
痺れを切らして急かせば、新羅は意を決したように言った。

『単刀直入に言うよ、

今臨也は、男に効くフェロモン体質なんだよ』

「…は?」

先刻より更に、意味が分からないという声が漏れた。
何を言ってるんだ、本当に。

「何の冗談?っていうか、何でそんなもの作ったの?」

『いや…知り合いの製薬会社に、そういうの専門の奴がいて、何か貰っちゃったんだけど…
セルティに食べさせて僕が今より更にメロメロになるのもいいな、って思って作ったんだけど、セルティは何も食べられないことに気がついて、放っておいたんだ。
で、忘れてて臨也に出しちゃった、と…』

「…ばっかじゃないの…?」

馬鹿げているにも程がある。
何でそんな理由で俺が捲き込まれなければならないんだ。

『大体24時間で効き目がなくなるから、早く家に帰っておくのをお勧めするよ。
臨也を知ってる人は皆、今日一日は臨也を見たら好きになっちゃうから気を付けてね』

「は!?ちょっと――」

ぷつん。
つー、つー。
怒鳴った電話からは、無機な音が響くだけ。
苛立ちを隠せないまま、臨也は携帯をポケットに捩じ込んだ。


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