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□その跡に、
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次の日。
池袋に出向いていた臨也は、予想通り静雄に会った。
相も変わらず、早々に赤鬼も真っ青な鬼ごっこを繰り広げ、散々走り回ったうえで二人きりになる。

「何で、恋人同士が会って初っぱな喧嘩なんかしなきゃならないかな…」

溜め息と共にそうぼやいた臨也に、静雄は眉をしかめながら「条件反射に決まってるだろ」と当然の如く言う。
まぁ、同じく静雄を見かけたら逃げる、なんていう反射が臨也も働くわけだから、無闇に責めることは出来ない。

…そんなとき、静雄が突然寄りかかってきた。その手は、臨也の首筋に添えられる。
驚きとその状態の恥ずかしさに赤面した臨也は、静雄を止めさせようとその顔を見て、
予想外の表情に、ぽかんとした。

「どうしたの、シズちゃん…」

静雄の顔は妙に真顔で、強張ってすらいて。
状況が呑めないでいる臨也へ、静雄は眉根を寄せて尋ねた。

「手前…この跡、どうした」

「え?」

勿論、自分の首元など、鏡でも無ければ見えるはずがない。
臨也としても、昨日静雄に付けられたキスマークしか覚えがないわけだ。

「どうした、って、シズちゃんのじゃ…」

「その隣、だよ。
俺は手前にしたことなら覚えてる。こんなところに跡つけた覚えは無い。
なんなんだよ、これは」

静雄の声が、徐々に苛立ちに満ちていく。
未だに理解がついていかないまま、臨也は焦りながら口を開いた。

「知らないって!昨日もシズちゃんの家から出たあと、そのまま家に帰ったし!
シズちゃん以外は、サイケしか喋ってないし…!」

静雄の眉が、更にしかめられた。

「サイケじゃねぇのか?」

「…え?」

サイケ、が?
俺にキスマークを付けた?

「まさか、サイケがそんなこと――…」

臨也にとっては、まるであり得ないことのように感じられた。
だって、サイケは子供みたい、で。
喜怒哀楽がころころ変わるし、拗ねてても直ぐに立ち直るし。

「サイケ、は、無いと思う…
もしサイケだったとしても…シズちゃんの真似のつもり、とか、そんなしか、考えられないし…」

どうにか紡いで、疑わしげな目を向ける静雄を見た。
何もやましいことは無いのだ。此処で怯んだら、逆に疑われてしまう。

「…絶対、か?」

「当たり前だろ、
だって、俺はシズちゃんだけが…」

はたり、と臨也は思わず口を止めた。
勢いで、物凄く恥ずかしいことを言おうとしていた気がする…。

顔を赤くさせて視線を揺らした臨也に、静雄はようやく納得したようだった。
和らいだ瞳は、何処か楽しそうに笑う。

「続き言ったら、信じてやる」

「は!?…いじわる……っ」

静雄の顔を見られないでいる臨也も、静雄の空気が変わったことに気がついたらしい。先刻よりは幾分気分が和らいだ。
…でも、言葉の先を言わないまでは、解放してもらえないのだろう。

「……言わなきゃ駄目?」

「キスマーク付けられる隙を作ったのは手前だろ」

肯定するしかない言葉に、臨也は静雄を睨みながら息を吐いた。
仕方ない。言おう。言わなきゃ終わらない。
臨也は深呼吸をすると、高鳴る胸でどうにか言った。


「シズちゃんだけ、が、すき、だから…」


最後は、空気が抜ける風船みたいに声が小さくなった。
今すぐ静雄を蹴散らして逃げたいくらい恥ずかしいけど。
目の前の静雄は優しく笑っていて、降参するしかなかった。



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