15万打リクエスト

□愛欲バロメーター
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静雄は一人、ソファの上で胸を高鳴らせていた。
独り暮らしの自宅の風呂場からは、シャワーの音が響いている。
当然。今日この家は、一人では無いから。

付き合っている臨也が、この家に居るから、だ。


いつものように仕事を終えて帰宅しようと歩いていれば、臨也に出くわした。
いくら付き合っていると言おうと、喧嘩相手は喧嘩相手。
静雄は、挑発してくる臨也を標識片手に全力で追い掛けた。
そして、数十分。
静雄の家の付近まで来た時だった。

「駅まで行くの面倒だから、シズちゃんの家泊まって良い?」

静雄は、臨也の言葉に眼を丸くした。
面倒臭いからって、恋人の家に泊まるのか。…それは少し不健全じゃ。
そう一人思うも、臨也は気にした様子もなく、決まりね、と何時ものように笑った。


そして、今に至るのだけれど、…やっぱりこの状態は、不健全極まりない。
深く溜め息を吐きながら、静雄は安物のソファーに身体を預けた。

告白したのは、此方から。
突然の告白に驚いた顔をした臨也は、小さく笑って「良いよ」と言った。
…そう、臨也が俺を好きか嫌いか、訊いたことがない。
付き合っているくせに、普段の会話は殺伐としていて、お世辞にも恋人同士には見えない。
明らかに、俺ばっかりが好きな感じだ。
今日の泊まりにしても、本当に好きなら、躊躇いや恥じらいの一つも有るんじゃないだろうか――
…贅沢だとは分かっているけれど。

「シズちゃんもお風呂、入らないの?」

突然掛けられた言葉に、静雄は驚いてそちらを見た。
考え事に気を取られているうちに風呂から出てきた臨也は、
サイズの大きい静雄のシャツとズボンの裾を捲って、タオルで髪を拭きながら首を傾げる。

「…入る」

呟いて、顔を俯けたまま風呂場へ行った。

可愛い。なんて不覚にも思ってしまった。
臨也にはサイズが大きいだろうとは想定していたが、まさかあそこまでとは。
余らせた袖が何処か幼くて。

…だから嫌なんだ。
そう呟いて、静雄も風呂に入った。



風呂から上がってきた静雄は、…すぐに驚くこととなる。

「あ、シズちゃん」

笑みを浮かべつつ言った臨也の胸元は、ボタンが3つ目まで外されていた。
白い滑らかな肌が、ぱっくりと開いた胸元から覗いている。
眼を丸くしたまま驚いて固まった静雄に気がついたのか、臨也は面白そうに笑った。

「お風呂上がりは暑いから外してるだけだけど…
何、男の胸見て嬉しいの?」

かぁ、と顔が赤くなった。
しかもふざけて、更に肌を露出させようとするからタチが悪い。
止めろ、とその手を掴めば、臨也は楽しそうに笑った。

その笑顔に惹かれて。
思わずその頭を撫でれば、臨也は眼を瞬かせて静雄を上目遣いで見上げる。
透き通るような紅い瞳が、静雄を見詰めた。

どきん。
高鳴りっぱなしの胸が、一際大きな音を立てる。
多分、臨也はこれを無意識にやっている。それが、可愛くもあるが煩わしい。

喧嘩相手だとは分かっているけれど、それ以前に、恋人、なわけで。


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