15万打リクエスト

□てのひら。
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そんな、変わらないある日。

仕事で池袋に来ていた俺は、頭痛と闘いながら街を歩いていた。
頭痛だけでなく、心なしか喉も痛い。
これは本格的に風邪かもしれない。
仕事も終えたため、早く帰ろうと速度を上げた時だった。

…目前に、見慣れた姿。
頭が、逃げる、という選択肢を弾き出すのと同時に、静雄の視線が此方を見た。

「いざやぁぁあ!!」

爆発したような怒声が、人波をすり抜けて耳に突き刺さる。
風邪なんか引いていれば、本領発揮なんか出来るはずがない。
ヘマをすれば馬鹿にされるのは一目瞭然だし、シズちゃんに風邪を感染すわけにはいかない。早めに撒いて逃げよう。

そう思い、臨也はぐらぐらする頭で一目散に逃げ出した。

彼から逃げ走る間。
ぐるぐる。ぐらぐら。頭は痛みと共に回り始める。
やばい。走るのもやっとなのに、全力で走れるわけが無い。
仕事に出ていることすら負担になっていたため、走っているうちにどんどん体調は悪化していく。

足なんか止めたら、シズちゃんに殴られる。
…分かっているのに、足元が覚束なくて止まってしまった。
いつの間にか自転車を片手に追い掛けてきていた静雄が、その異変に気がついて臨也に駆け寄る。

「臨也、手前…」

「ん…?殴んないの?」

痛い。それを堪えて静雄を見上げれば、眉をひそめた顔が目に映った。
此方に伸びた腕が、額に添えられる。
優しく触れた骨張った指は、冷たくて気持ちが良かった。

「あっつ…お前、風邪引いてるんじゃ…」

「煩いな…大丈夫だから」

近くの壁にもたれ掛かれば、気にしたように静雄が此方に視線を動かす。
その視線から逃れるように、俯いた時だった。

視界に静雄の腕が映る。
何事かと顔を上げた瞬間、身体まで浮いた。

「!?」

驚いて、目の前の静雄の服に掴まる。
直ぐ側に静雄の顔。
…俗に言う、お姫さま抱っこ…とかいうやつ、で。
一瞬で心臓が跳ね上がる。
状況を読めないままにあたふたすれば、静雄が歩き出した。

「え、シズちゃん!?」

降ろして、と喚くも、静雄はその手を決して離しはしない。
人の目について恥ずかしいことこの上ないのだが、
シャツに絡めた指を離せない自分がいた。

「手前の家までは面倒だから、俺の家で休め」

「……うん」

仕方なしに、素直に返事をした。あくまで、仕方なしに。
決して、このままシズちゃんの体温に触れていたいわけでは無いんだから。



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