15万打リクエスト

□愛情アンダンテ
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「じゃあ、門田と付き合えば良いだろ」


ぎゅう、と一瞬にして胸が縛られるような痛みに襲われた。
違う、そうじゃなくて。
開きかけた口からは、望んだものとは正反対の言葉が出た。

「本当に、シズちゃんみたいな奴よりドタチンみたいな色々してくれる彼氏が良かった」

こんな時でも嘲笑を浮かべられる自分が恨めしい。
静雄は、不機嫌をまざまざとさせた眼で臨也を睨んだ。

「なら、さっさと門田のところに行けば良いだろ」

ずきん。刺されるような痛みが、胸を襲う。
――こんな会話するために言ったんじゃないのに。

「っ…何でそうなるの!?」

臨也は思わず、泣きそうな声を張り上げた。
いつもは怯みもしない静雄の苛立たしげな瞳が、今日は酷く怖い。

喧嘩がしたかったんじゃない。
もっと、俺に構って欲しかった。
あんなの、冗談に決まってるじゃん。
そんな、誰にでも同じ言葉じゃなくて、
もう少しで良いから、執着を感じさせて欲しかっただけ。
…だって、俺ばっかり好き、みたいで。

――視界がぐにゃりと歪んだ。
そう思えば、頬に生暖かい温度が滑り、顎を伝って落ちた。
一度流れれば止まることはなく、後から後から溢れてくる。
静雄の動揺した顔が見えたけれど、泣いている意味を悟られたくなくて、臨也は必死で悪態をつく。

「シズちゃん、の、好きにすれば良いだろっ、俺は、ドタチンでいいよ!」

静雄の顔が歪む。苛立ちと焦燥が混ざった表情に、臨也は堪えられず静雄の家を飛び出した。



「シズちゃんの分からず屋…」

嗚咽を溢しながら、小さく呟く。

…シズちゃんの中で俺は、勢いで「門田と居れば良いだろ」と言える程度なのだろうか。
俺だって、シズちゃんと居たいに決まってるだろ。
シズちゃんが素っ気ないから、本心はどうでもいいと思われているかもしれない、って、思っちゃうんだよ。
怒ったのは、俺が他の男の話をしたからだよね?そうなんだよね?
お願いだから、そうに決まってる、って言って欲しい。

涙を拭っても視界は一向に晴れなくて、いつもしているはずの喧嘩なのに、胸が潰されるように痛くて。

でも、確かめたい。
シズちゃんが、自分をどう思っているのか。
「門田なんかにやらねぇ」って、言ってくれると信じたい。
傍惚れかもしれない、なんて、思いたくない。



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