40万小説
□愛のくちづけを交わそうか。
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「シズちゃん、別れよう」
そう紡げば、静雄は固まった。ああ、風が冷たい。冷たいね。
「何でだよ……?」
歪められた顔。臨也を凝視する瞳は、戸惑って揺れる。
でも、シズちゃん。これがきっと、俺たちのあるべき姿だと思うんだ。歪なままじゃ、シズちゃんには勿体ないよ。
だって、シズちゃんが名前を呼ぶべきなのは、俺じゃないだろう?呼ばれるべきなのは、俺じゃないだろう?
シズちゃんには、もっと別の、整合する相手がいるはずだ。
「シズちゃんが嫌いなんじゃない。好きだよ。今も昔も、変わらないくらい好き。…いや、もっと好きになった」
「じゃあ」
「でも、シズちゃんの隣にいるべきなのは俺じゃないから」
口角をつり上げてみた。シズちゃんには笑って見えただろうか。きっと大丈夫。表情を隠すのは得意だから。
静雄は、未だに理解したくないという顔をしていて。ずきん、胸が痛みに揺れた。
「何でだよ、好きなのに別れるって」
「…俺じゃ、シズちゃんを愛しきることができないんだよ。俺とシズちゃんじゃ、違いすぎる、から――、」
声が震えた。静雄をちゃんと見られない。目の奥がずんとして、唇を噛み締めた。
踵を返す。重たい腕を起こして、小さく手を振った。明るい声で笑う。
「ありがとう、ばいばい」
振り返った最後に垣間見たのは、酷く苦し気に歪んだ静雄の顔と、伸ばされかけて空を握った掌。
その切ないばかりの瞳に、幸せを願うことしか出来なかった。
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