40万小説

□不器用な指を絡め、
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「臨也、待ってたのか。先帰れって言ったのに」

不意にかけられた声に、臨也は驚いて跳ね上がった。
振り返れば先刻まで話していた男子は既に居らず、代わりに静雄がすぐ近くにいた。

「だって一人で帰ってもつまらないし」

「門田とか新羅がいるだろ、一緒に帰れば良かったのに」

「シズちゃんじゃなきゃ、つまらないの。分からないかなー」

「…分かった、ごめん。帰るぞ」

荷物を持った静雄は、臨也を見やる。その赤らんだ頬に笑いながら、臨也も席を立った。
…こんなに近くにいる。何が違うって言うんだ。
臨也は、静雄の背を追った。


秋にもなれば、日が暮れるのがうんと早くなる。一ヶ月前の六時の空はまだまだ明るかったが、今はもう藍色に染まっていた。
その中を手を繋いで歩きながら、たわいもない会話をする。この時間が大好きだった。
――なのに、こんな時もさっきの会話が耳について離れないなんて。

「なぁ、臨也」

不意に呼ばれ、臨也は驚きつつも何もなかったように静雄を見上げた。
と、何処か戸惑ったような顔の静雄がいて。しかしそれを隠そうとしているのか、視線は前を向いたまま、無理矢理笑みを作っている。
不自然なのがバレバレじゃないか。そう言ってやりたくもなりながら、何、と尋ねれば。


「俺たち、何で付き合ってるんだろうな」


は?…そんなの、当たり前じゃないか。

「…好きだから、だろ?」

答えた臨也に、静雄は何処かほっとしたように笑った。だよな。まだ、そこはかとなく不安を残した顔で。

そう、好きだから付き合っている。でなきゃ、男同士だなんて疾うに別れてるだろう。手を繋いで帰ったりも、絶対しない。
…なのに、どうしてだろう。

“じゃあ、シズちゃんはどうして俺と付き合ってるの?”

そう問いかけることに、底知れない不安を感じているのは。
“好きだからだろ”そう返ってくる自信がないのは。



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