30万打小説

□花遊楽
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「綺麗だね」

臨也のふとした言葉に、静雄は目を丸くした。
何、その顔。
訝しげな表情で唸った臨也へ、静雄は素直に「意外だ」と答える。
花瓶に挿された色とりどりの花は、その会話を聞くように首を傾げていた。

臨也の自宅兼事務所。今日そこのリビングには、花が置いてある。
と言うのも、臨也の取引先の一人が庭で育てているからと此処に置いていったものだ。去年も同じ時期に貰った記憶がある。
先刻までいた秘書は処分に困ると顔をしかめていたが、別に問題があるわけでもないため、臨也はそのまま枯れるまで飾っておくことにした。

「何?俺が花を見ても何とも思わない、寧ろ邪魔だと思うような冷徹な人間だとでも思ってた?」

「思ってた」

「酷いなぁ。別に人間なんだから、ある程度の感情くらいあるって。シズちゃんじゃあるまい」

臨也の最後の言葉に、静雄は顔をしかめる。勿論、そんな反応が返ってくることくらい承知だ。伊達に何年も絡んできた訳ではないし、況してそれすら知らないまま静雄と付き合ったりもしない。

…そう、静雄と付き合っているのだ。今までも散々身体を交えてきたし、それを嫌悪したこともない。少なくとも愛情があるのは確か。
幾ら人間を傍観するという立場を愛しているからと人間と全く違う思考を歩むわけではないと、改めて思い知らされた。

「花、好きなのか?」

「んー、嫌いじゃないよ」

素直に答えて、ソファに沈む。静雄を見れば、考え込むように花を見つめていた。否、寧ろ睨んでいるという方が近い気がする。
何をそんなに考えているんだか、と笑っていれば、唐突に静雄が此方を見た。何、と尋ねようと口を開けば。


「セックスするぞ」


「…は、!?」

そう一言だけ放った静雄は、臨也を寝室まで担ぎベッドへ放り投げた。キシリとスプリングが鳴く。かと思えば、静雄は寝室を出ていってしまった。
勿論、行為自体を拒否をするつもりはない。ないが、あまりに唐突で、何をどう反応すればいいか分からない。
ベッドで寝転んだまま扉の方を見ていれば、戻ってきた静雄の手には先刻の花瓶が握られていた。
何のつもりか、静雄の行動を見ていれば。

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