30万打小説

□三本足のワルツ
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数時間後、二人はコンビニの前にいた。トムは店内で買ってきたジュースを静雄に手渡す。遠慮がちに受け取った静雄は、小さく頭を下げた。

「いいんすか?奢りなんて…」

「いいんだよ。いつも世話になってっからなー」

「そんな、俺の方こそ」

僅かに照れながら言った静雄は、先刻まで眉間に深く皺を刻んで人間を投げ飛ばしていた奴とは思えない。
そんなことを思いつつペットボトルを仰いでいれば、不意に静雄が呟いた。

「本当に、いつもすみません、迷惑かけてばっかりで…」

沈んだ口調になった静雄に、そんなことない、と笑いかければ、でも、と静雄は声を張った。

「だって、俺が起こした不祥事を対処してもらったり、臨也を見つけるとそのまま追いかけていってトムさん一人にしちまったり…」

叱られた犬みたいに項垂れる静雄から、垂れ下がった尻尾が見える気がしてトムは思わず笑みを溢す。
それから、静雄の頭をぽんぽんと叩いた。

「静雄がしたことを最終的にまとめるのは社長だし、それでも社長がお前が必要だって思ってるから今俺の隣にいるんだろ。だから、そんな気に病むことじゃねぇよ。
それに臨也は…仕方ないな。一人になるのは構わねえからいいけどよ。
…まぁ、恋人見つけたら追い回したい気持ちは分からんでもない」

「っ……すみませんっす」

言えば、静雄の顔に赤みが差す。初めて恋人の出来た中学生みたいな反応に、池袋自動喧嘩人形なんていうあだ名とのギャップを感じて、微笑ましくなった。

――そう、静雄は折原臨也という男と付き合っている。
その事実を告げられた時は五度聞き直すくらい驚いたが、今では純粋に応援してやりたいと思う。

そういえば、今日はまだその折原臨也に遭遇していないと思っていれば、不意に静雄が口を開いた。

「トムさん、あのっすね、別に、俺は臨也が好きだから追いかけている訳じゃないんすよ。あ、いや、好きじゃないわけじゃないんすけど…でも、高校の頃の名残で、深い意味は無くて…」

あわあわとしどろもどろに説明する静雄は面白い。
思わず弄ってみたくなり、「でも可愛いんだろ?」と尋ねれば、静雄は素っ頓狂な声をあげてぴたりと止まった。

「た、しかに、いじったときの反応とか、いきなりキスした時の反応はすごい可愛いんすけど、別にだからという訳じゃないんすよ」

「ふぅん、それで?」

「まぁ、確かに臨也はいつ見ても飽きないからってのも無くはないし、寧ろずっと見ていたいくらいで、」

「ふんふん、で、喧嘩が一息ついたらその後どうしてるんだ?」

「その後は互いの家に行ったりそのまま路地裏で――
……トムさん!?」

ようやく気づいたか、とトムはくつくつと笑う。静雄はいつも、話を促せば気がつくまで何でも話してしまう。無意識のうちに惚気るものだから、わざとらしい言葉よりも幾分楽しい。当の本人の静雄は恥ずかしそうに眉をよせているが。
ゆっくり休憩ができ満足したトムは、静雄を連れて再び歩き出した。


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