30万打小説

□三本足のワルツ
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ああ、今日もまた仕事だ。

トムはそう思いながら、集金に供する彼の姿を待つ。金色の頭が、人波からひとつ飛び出ているのを。

と言うのも、田中トムはテレクラの集金の仕事をしている。とは言いつつも、自分だけの力では今の回収率は無いだろう。…多少非合法ではあるが、一緒に回るもう一人、正に今待っている奴がいるからこそ回収できることも少なくない。
――そして、そのもう一人と言うのは。

「よ、静雄」

「っす」

金髪にバーテン服、サングラスという、目につく外見をしている平和島静雄だ。
普段の彼は大人しく、一見しただけでは温厚そうな青年にしか見えない。実際に、波風をたてなければ至って普通の青年だ。
…ただ、一度怒らせると、手が付けられないだけで。

「すみません、遅くなって」

「いや、良いって。弟との久しぶりの電話だったんだろ?」

「はい、元気そうでよかったっす」

ふわ、と嬉しそうに笑った彼は、ああ確かに美形だ、と胸中で思う。
俳優の羽島幽平の本名は平和島幽、所謂静雄の弟。彼の整った顔立ちは、やはり何処か幽を連想させる。

「んじゃ、行くか。今日は少ない分面倒なのが立て込んでるから、宜しくな」

「うす」

そうして、二人は人波に紛れて歩き出した。


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