30万打小説

□煙草の味のキス
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くちゅり、ぴちゃり、舌の動きに合わせて響く艶かしい水音と共に荒い息遣いが生活空間を満たし、何処か色めいた場所に変えていく。
別に、臨也はここで生活しているわけではない。頻繁に訪れはするけれど、大抵一晩で帰ってしまう。
けれども勿論、来たからにはすることもするわけで、この部屋がベッドになることが無かったわけではない。
ただ、つい先刻まで一緒に食卓を囲んでいたその床で折り重なって唇を重ねるのは、何となく背徳感がある。とは言っても、無神経な彼はそんなことなど考えてもいないから、こうしてこの場所で押し倒されているわけだが。

と、唇が離れ、臨也は荒い呼吸のままぼんやりとした瞳で静雄を見上げた。
僅かに息を乱す静雄は、そんな臨也を見詰め返し、ふと笑みを溢す。どきん、と胸が高鳴った。

「何だよ、そんなにキス、気持ちよかったのか?」

「…違う」

静雄の不遜な態度に反抗しながらも、どきどきと胸は跳ね続ける。
先刻の笑顔のせいだけではない。羞恥を煽る問いかけのせいだけでもない。
臨也は、静雄を真っ直ぐに見やった。言葉にするのは恥ずかしい。けれど、ここまで高ぶらせておいてここで終わりなんて、それは許せない。

「ねぇ、シズちゃん…」

「――何だよ、言ってみろ」

臨也の言わんとすることを読んだように、静雄はそう返した。臨也は唇を噛みながら眉を寄せて、静雄のシャツを掴む。その頬は羞恥に赤く染まっていた。
――静雄だって、分からないはずがない。口付けをした臨也の顔が赤くなって、その潤んだ瞳が何か言いたげにこちらを見上げてくれば、何を意味するか一目瞭然。
…勿論、それを断る理由もない。寧ろ、静雄だって望んでいる。

「…分かってるくせに」

「分からないな」

静雄の態度に、臨也は眉尻を吊り上げる。睨んではみたものの、何も怖くない、と笑われ、臨也は唇を噛んだ。
この押収をしても折れるのは、いつだって自分だ。言わされる此方は恥ずかしくて堪らないというのに、人の羞恥を弄ぶように彼はいつだって不敵に笑いかける。
対抗してやりたい。じゃあいいよもう、と頬を目一杯つねってやりたい。
そんな気持ちだけは、いつだってある。

「…意地悪シズちゃん」

「褒めてるのか?」

静雄は、その手を臨也の腹部に這わせる。布越しだというのに、突起を緩く擦られれば、腰に疼きが走った。
…そう、反抗したい気持ちは、いつだってある、のに。

「…てよ」

「あ?聞こえない」


「……して、よ、」


顔なんか、真っ赤になってるに決まっている。声だって、馬鹿みたく震えている。
…でも、ほしい。シズちゃんがほしい。
恥ずかしさに俯いて、ちらりと静雄を見やれば、静雄は満足げに微笑んだ。その笑顔にすら、鼓動は煽られる。
思わず視線を逸らせば、静雄の掌が頬に添えられ、そのまま唇を奪われた。艶かしい舌で臨也の口腔を蹂躙しながら、静雄は臨也のシャツを捲りあげ、先刻の布越しの愛撫にすら反応した突起を直に撫でる。途端に臨也の身体はびくりと跳ね、整った唇から甘い声が零れた。
唇を離し、まだ触れていない蕾に吸い付けば、その嬌声は静雄の情欲を煽るようにより鮮明に響く。

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