30万打小説
□寒い1日の過ごし方
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「あ、ジャージ忘れた」
秋も深まり、冬へと足踏みする11月。
寒さも増してきた中の、体育の授業のこと。
着替えをしていれば、臨也が唐突にそう言った。それを隣で聞いた静雄は、馬鹿だろお前、と相手を罵る顔で言う。
「この時期にジャージ忘れるとか、絶対馬鹿だ」
「煩いな、シズちゃんには関係ないだろ。あー、最悪」
そんな意味のない問答をして、二人はふてぶてしく睨み合う。しかし臨也から視線を逸らし、小さく溜め息を漏らした。
「寒いの嫌だな…ドタチンに言えば貸してくれるかな」
そんな臨也の声に、静雄はぴくりと反応した。視線を逸らしている臨也は、その反応には気付かない。
そのまま、臨也が嫌だ嫌だと唸っていれば。
「っわ!?」
突然、ばさりという音と共に視界が暗くなった。何かと視界を覆い隠したものを持ち上げれば、それはジャージ。名前を見れば、平和島と記されていて。
嫌がらせか、と一言言ってやろうとすれば。
「寒いなら着ろ。て、手前、俺より身体弱いんだから、着ておけ。…ッ、上だけしか貸さないけどな!」
そう怒鳴るように言った静雄の顔は赤い。
ねぇ、本当にいいの?だから、駄目だったら渡さないだろ!
そう言って、静雄は上は体操服一枚だけの寒々しい格好でズカズカと歩いていってしまった。
勿論、臨也としてもその親切のような行為を断る理由もなく、素直に腕を通す。
静雄との体格差もあり、ジャージは臨也の指をすっぽり隠してしまう。寒い日には有難い。ジャージのズボンくらい無くとも、上があれば結構暖かいものだ。
「シズちゃん、喧嘩するくせに何か時々優しいんだよねー」
ぽつりと呟いて首を傾げながら、臨也も門田たちと合流すべく教室を出てグラウンドに向かった。
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