30万打小説

□色恋ジレンマ
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「臨也」

ぴくん、と臨也の肩が揺れる。無視しようとでもしたのか、僅かに間を置いて振り返らないまま、何、と返事が返ってきた。そんな臨也の腕を掴み、無理矢理椅子から立たせる。

「何?離せよ…ッ」

焦ったような臨也の声。目を向ければ、ばちりと視線がぶつかる。やっぱり逸らされた。
どうしてかは分からない。けれど、気に喰わないのは事実で。
チャイムが鳴り始めたが、次の授業なんか関係なしに教室を抜け出した。

その間も臨也は、離せ止めろの一点張り。しかし、抗う腕に力は然程こもっていないのに気がついた。
けれどそれが何を意味するのかなんて分かるはずもなく、ただ引き摺るように臨也を連れ、昨日喧嘩をした棟まで連れ出した。

人気のない階に辿り着く。ようやく腕を離せば、臨也は赤くなった腕を擦りながらそっぽを向いた。それから、硝子玉みたいに綺麗な赤い瞳が、躊躇いがちに静雄を見上げる。どきり。勝手に胸が震えた。

「…何のつもりなの、シズちゃん」

艶やかな髪が、窓から射し込む眩い光に何処か艶かしく光る。短い学ランの裾から覗く腰はすらりと細く、ああ、これだから、と溜め息すら吐きたくなった。
認めたくないんだ。信じたくないんだ。けれど、だったらどうしてこんなにも臨也を手離したくないんだ。
答えはずっと分かっていたのだ。ただそれが独り善がりであまりにも救われなくて、認めたくなかった。
でももう、逃げられない。逃げるには想いが膨らみすぎたから――。

警戒する臨也に近づく。後退った臨也の手首を掴むと、喉の奥でつかえようとする言葉を紡いだ。


「好きだ」


臨也の目が見開かれる。薄い唇が、普段は聞かないような弱々しい声音で、嘘だ、と呟いた。

「嘘じゃない。嘘吐いてどうするんだよ」

「知らないよ…シズちゃんに訊いてるんだから…っ、だって、…」

臨也の言葉が止まった。その顔は、みるみるうちに歪み。
拒絶されたら、それまでだと思っていた。けれど、臨也の反応は拒絶とはまた違う気がして。

「…何だよ」

「……」

臨也は黙る。もどかしくて堪らなかった。いつもは気を逆撫でることをいくらでも言うくせに、どうしてこんなときにどもるのだ。
臨也。急かすように呼べば、臨也は俯いて肩を震わせ。

「だって、飽きたって言っただろ!!」

唐突に叫ばれた言葉に、思わず目を瞬かせる。
「飽きた」。その言葉は、記憶にも新しい昨日の出来事。
臨也は俯いたまま、震える声で切々と口を開いた。

「飽きたって、シズちゃんが言ったから、嫌われてるから当然だ、って思ってたら辛くて、シズちゃんと話せなかったのに…
ずるいよ、シズちゃんは狡い…っ」

どうせ、馬鹿にしたいから告白したんだろ。臨也は、潤んだ瞳で静雄を見上げた。
ああ、そんな、場を紛らすためだけに放った言葉を鵜呑みにして、泣くぐらい、話すのも躊躇うくらい、悩んで。
――可愛い。

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