30万打小説

□似た者ワルツ
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静雄は、久しぶりに臨也の家に来ていた。
普段は互いに仕事があったり都合が合わなかったりと、会えないことが多い。その分メールやら電話やらは頻繁にしているのだけれど。
お陰で、今まであまり更新されなかった発着信履歴やらメールの送受信履歴は増え、その大半が臨也の名前で埋め尽くされるようになった。
中学生の付き合いたてのカップルみたいだと思えば何となく気恥ずかしいが、悪い気はしない。

「シュークリームあるけど食べる?」

「ああ」

「何飲む?コーヒー?紅茶?インスタントしか無いんだけど」

「ん、じゃあコーヒー」

「はぁい」

キッチンから響く臨也の声も、心なしか嬉しそうに聞こえる。電話での会話も嫌いではないが、こうして直接声を聞くのには敵いはしない。機械越しの声よりも、此方の方が幾分と綺麗に聞こえる。

そんなことを思っていた時だ。
不意に、臨也の仕事に使う机に置かれた携帯から着信音が鳴り響く。臨也を呼ぼうとすれば、放っておいていいよ、とキッチンから声がかけられた。
それでも携帯を見に行けば、受話器のアイコンが側面の画面で揺れている。
本当に良いのか、と尋ねようとして、ふとその隣の携帯に目が行った。

臨也が携帯を何台か持っているのは知っていた。今着信しているのはプライベート用の携帯だ。仕事用の物は、また別の位置に置いてある。しかし今気がついた携帯は今まで見たことがなく、見た目も真新しい。こんなに携帯を持っていて、よく間違わないな、と思っていれば。

「あっ、携帯には触らないでね!」

焦ったような声が聞こえてきて、静雄は思わずウズウズしだした。
立入禁止に入りたくなるように、駄目だと言われれば見たくなる。勿論、そこに爆薬が仕掛けられているとか、見たら呪われるだとか、確定された事実があれば触れようとはしないのだけれど。
静雄は思わずその携帯を手に取った。と、携帯の下敷きになっていたストラップが揺れる。よくある、名前の入れられる革のストラップ。
そこには、静雄、とアルファベットで彫られていた。

キョトンとしていれば、コーヒーとシュークリームをトレーに載せた臨也がキッチンから出てきた。
シズちゃん何してるの、と此方に呼び掛けた臨也は、静雄の手にある携帯を見るなり、ああ!と焦ったように悲鳴をあげる。
トレーを机に置いた臨也は、走って此方に来た。その顔は赤く染まっており、この携帯が見られたくないだけの代物であるのは明白で。

「ちょっと!駄目だって言っただろ馬鹿シズちゃん!返せ!」

「見るなとか馬鹿とか、そこまで言われて見ないわけがないだろ」

携帯を高く持ち上げれば、身長差のせいで臨也の手は届かない。抵抗に胸板を叩かれても、ナイフすらろくに刺さらない身体だ。蚊に刺されるような程度にしか思えない。
好奇心にワクワクしながらその携帯を開き、静雄は思わず眉をしかめた。

「…手前、何で俺の寝顔なんか待ち受けにしてるんだよ……」

「っ煩いな馬鹿!シズちゃんがバカ面して寝てるときに撮ったの!返せ!!」

怒鳴った臨也の顔は、先刻よりも赤い。しかしそれが怒りからでないことは当たり前に分かる。
臨也が可愛いのは山々だが、とりあえずこの写真だけでも消さなければ。そう思いデータフォルダを見て、…今度は静雄が赤面することとなる。

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