30万打小説

□憂いたシンデレラ
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そんな、何も変わらないある日。
いつものように放課後、臨也は準備室へ向かっていた。
そうして、扉を開けようとした時。


「好きなんです!」


突然、準備室の中から女子生徒の声が響いた。
思わず手を止めて、硬直する。鼓動は跳ね上がり、口から心臓が飛び出そうとはこういうことか、と改めて思う。
扉の隙間から、臨也はこっそりと室内を覗いた。いつもの静雄の席。その前に、同じクラスの女子が立っていた。
しばらくの沈黙。口が乾いて、唾を飲み込む。
女子生徒は黙る静雄へ、戸惑いながらも再び口を開いた。

「分かってます、静雄先生は先生だし、私は生徒でしかないことくらい…
でも…!気持ちだけは、認めてほしいんです…!
卒業してからでもいいです、…付き合いたいんです…」

絞り出すような声だった。泣きそうな声だった。
――自分が、酷く欲張りだということに気がついた。
自分しか見ないでほしい、自分としか話さないでほしい、好きでいてほしい。
気持ちを認めてほしいだとか、そんな純情な気持ちは我が儘に呑まれていつしか何処かへ行ってしまった。
…俺はやっぱり、

醜い。

「…ごめん……付き合うことは、できねぇ…別に、お前が嫌いなわけじゃない。っ、俺が教えてる生徒としてお前は好きだ。我が儘言わないし、授業もちゃんと聞く。
だけど、…お前は、大切な生徒だ。」

静雄が何れ程彼女を傷つけないようにと言葉を選んでいるかは、痛いくらい分かる。ここで冷たく突き放すことが出来ないのが彼だから。

「…じゃあ、卒業するまでに気持ちが変わることはないんですか…!?」

女子生徒の声は、泣いていた。戸惑いながら言葉を探し、頷いた静雄。
――何だかそれが、酷く滑稽に思えた。
男なんかと、俺なんかと付き合っているばかりに、折角女子生徒に告白されたのに断るだなんて。
俺なんかよりも彼女の方が、隣にいてずっと自然で、ずっといい。
そうに決まってるのに。

好きになってくれてありがとう。静雄はそう言った。
臨也は、堪えられなくて逃げるように走り去った。


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