30万打小説

□愛情キャパシティ
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「一度はイザ兄に着て欲しかったんだよねー、やっぱり似合う!」

「麗…」

「だよねぇ、クル姉も思った?やっぱり似合うよイザ兄!」

理解できない。…否、理解したくない。
臨也は呆れと苛立ちの入り交じった瞳で妹二人を見た。
その片割れである舞流は、何処か艶かしく臨也の首筋を指でなぞり、ネクタイを緩める。

「こっちのがエロいね。ボタンも一個外しちゃえ。あー、鎖骨隠れちゃうなぁ、ネクタイ邪魔かなぁ」

「縛…」

「あっ、そっかあ!だったら必要だよね。何たって生徒に狙われる保健の先生だもん、やっぱり縛るものは必要だよね!」

――臨也は思わず、深い溜め息を溢した。

そもそも、こうなったのは唐突に妹二人が自宅兼事務所に押し掛けてきたからだ。油断していれば突然舞流に組み敷かれ、腕を捕らえられた挙句着せ替え人形状態である。
無理矢理着替えさせられた服装は、ワイシャツとネクタイに白衣、更にオプションとして眼鏡のベタな格好。
最初こそは抵抗もしていたものの、今腕も足も一纏めにされていて、それすらも面倒臭い。嫌がって抵抗するくらいなら早く終わってほしい。

「完成っ!」

舞流の嬉しそうな声に、九瑠璃はパチパチと拍手をした。
満足げに笑った舞流は携帯を取り出し、臨也の写真を撮ると、臨也そっちのけで語りだす。

「やっぱり我が兄ながらかっこいいね、イザ兄は。私たちだけしか知らないのも勿体無いし、静雄さんにでも写真送る?」

「肯」

「は?ちょっとお前ら、」

予想外な言葉に動揺する臨也だったが、身ぐるみ剥がされナイフすらも持っておらず、抵抗する間もなくそれは静雄の携帯に送信されてしまった。
舞流と九瑠璃は満足したように息を吐くと、そのまま部屋を出ていこうとする。思わず、ほどいていけよと言うも双子は聞く耳を持たず、じゃあね、とひらひらと手を振ると臨也の家を出ていった。

残された臨也は、はああと大きな溜め息を吐く。自分のせいであるとは分かってはいるものの、あの妹たちは扱い辛い。他人からすれば自分もあんなものなんだろうか。少し嫌気がさす。
とにもかくにも、縛られた腕を解かないことには動けもしない。今日は運悪く波江も休みだ。
反動をつけて起き上がると、ソファーにかかっている上着まで、床を這うように進む。格好悪いが、静雄ほどの怪力を持ち合わせている訳でもなく、ナイフでもなければ何重にも巻かれた紐なんて切れやしない。

…ていうか、シズちゃんに送るなよ……
舞流が面白がって写真を送ったことをふと思い出す。今度会ったら馬鹿にされそうだ、と思えば、今更恥ずかしさが沸いてきた。

臨也と静雄は恋愛関係にある。男同士の歪な形だが、相思相愛に違いはない。
それを何処から聞き付けたか、妹二人は知っていて時々こうして詰りに来るのだ。

ジャケットから探り当てたナイフで腕と足を纏められていた紐を切り、気疲れを癒すようにソファーに腰を下ろした時だった。

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