30万打小説

□憂心ラプソディー
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「俺がシズちゃんを、愛してあげようか」

喧嘩の最中言われた言葉。
誰かに愛されたい。そんな思いを抱え続けていた静雄には、それは望んでいた言葉であること他ならない。
勿論、その言葉が甘言であることなど百も承知だった。
…けれど。
拒否なんて既に、出来るはずが無かった。

***

「は…ん、んぅ…ふっ、…」

荒い吐息と水音が部屋に響き、いつもと変わらない生活空間を何処か艶かしい色に変える。
静雄は重ねていた唇を離した。絡んでいた舌を名残惜しげに繋いだ唾液は、ふつりと途切れる。
呼吸を整えながら静雄を見上げた臨也の瞳は色めかしさを帯び、静雄の理性を剥ごうと誘った。
そんな臨也を、静雄は優しく抱き締める。

「なぁに、シズちゃん。どうしたの?」

「どうもしねぇ」

そう返せば、臨也は微笑んで静雄を抱き締め返す。細い腕は、少し力を入れたら折れてしまいそうで。
同じように細い身体を、折れないように優しく抱き寄せた。


『俺がシズちゃんを、愛してあげようか』
唐突な言葉を言われて数ヵ月。臨也と静雄は、恋人同士に値する関係になっていた。
二人で会うし、会えばキスもセックスもする。満足な会話こそ無いけれど、好きだの何だのも時には言う、何処にでもある恋人同士の関係。

…だけれど、そこに気持ちが伴っているかは知るはずもない。
――臨也の高飛車な言葉に肯定の返事をする前から、静雄は臨也に恋心を抱いていた。
所詮叶わないと諦めていたのに、臨也はまるで挑発するみたいに、そんな告白をしてきたのだ。
…きっと、臨也は気づいていた。自分が臨也に恋心を寄せていたことを。愛されたいと思っていたことを。
だから、馬鹿にするつもりか、手玉にとるつもりか、告白をしてきた。そして、俺はそれを受けた。
…だから、臨也の言葉は心なんてものはこもっていない。言葉を紡がれる度に、そう言い聞かせていた。でないと、いつか振られた時に深手を負ってしまうのは自分だから。


「シーズちゃーん?」

「ん?ああ、何だ?」

呼ばれて我に返り、静雄は臨也を見やる。
ぼんやりしすぎ、と笑われ、その微笑みに癒される反面、笑顔の真偽を問うてしまいたくなる自分がいた。



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