30万打小説
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「…幻覚剤?」
新羅の訳が分からないと言いたげな声に、臨也は頷いて見せる。
頭がおかしくなった?そう言う新羅へ、君に言われたくない、と一言吐き捨て、臨也は改めて新羅に向き直った。
冗談でこんなこと言うわけないさ。いつになく真剣な臨也に、新羅は曖昧に頷いて見せる。
――どうにもしようにない沈黙が、臨也の申し出たことの異質さを物語っていた。
…と言うのも、俺が新羅に「人間が猫に見える幻覚剤って無い?」なんて、問いかけたからだ。確かに、我ながら馬鹿げた問い掛けだと思う。
…だからこそ、理由なんて決まっている。
「シズちゃんは猫、好きだろ?俺を見ても猫としか思わなかったら、どんなに変なことしても大丈夫だと思わない?」
臨也の言葉に、新羅はあからさまに溜め息を吐いた。僅かに苛立ちながらも、ねぇ、無いの、と再び尋ねる。
新羅は臨也を訝しげな目で見つつも立ち上がった。隣の物置用の部屋へ行き、帰ってきたその手には小瓶が握られている。中では、透明な粘着質の液体が揺れていた。
ソファに腰を下ろした新羅を尋ねるように見やれば、新羅は面倒だというオーラを滲ませたまま口を開いた。
「これが、臨也の言ってたもの。父さんが何処からか知らないけど手に入れてね。僕が信じないからって無理矢理飲まされて…。確かに本当だよ」
再び溜め息を吐いた新羅は、それを臨也に手渡す。本当にこんなもので、見た人間が猫に見えたりするのだろうか。
「効果は、一滴につき血液として脳に循環した状態から一時間くらい。個人差はあるだろうけど。くれぐれも、入れすぎないようにね。」
見た人間全部が猫に見えるんだ。後で大変なことになりかねないよ。そう言った新羅は、正に経験者は語る、だ。同じものがこれひとつしか無いなら、きっと小瓶の半ばごろまで飲まされたのだろう。
新羅が本当に飲んだことがあり嘘を吐いていないなら、少なくとも事実ということだ。
次いで、聴覚には幻覚剤は効かないからね、と新羅は溜め息とともに言った。
臨也はそれをまじまじと眺め、嘘だったら新羅の責任だからね、とせせら笑いを浮かべて、新羅の家を後にした。
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