30万打小説

□「満たしてよ」
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「…先に、触ってきたくせに」

「それは、悪かったけどよ……手前のせいでも、ある」

「…欲求不満なんだね」

「手前が相手だからな」

身に覚えの無い責任転嫁するな、と唸って、それから臨也は下唇を噛み締めた。
幾ら誤魔化す台詞を吐いても、今の雰囲気を脱するには、肯定か否定かをしなければならないのだ。それくらい、幾ら混乱していても分かる。

「…本気?」

「俺だって、嘘でこんなことするほど度胸はない」

知ってる。そんなこと知ってるよ。シズちゃんが嘘を吐くのが下手なことも、冗談でこんなことを仕掛けられるほど大人じゃないことも。
…それなら、シズちゃんは知ってる?感情という感情を押さえられる俺が、言葉を捏ね回して他人を詰ることを楽しむ俺が、こういう場面に酷く弱いことを。

「……うん」

「…ん?」

「だからっ…」

頭がパンクしそうだった。言葉にするのが恥ずかしくて、馬鹿にされないか怖くて。
分かってよ。静雄をじっと見つめて、臨也は緊張に乾いた唇を舐めると、頷いた。
だから。分かって。

「……して、いいよ」

唇は震えた。あまりに拙い言葉は、自分じゃないみたいで。
羞恥に思わず掌で顔を覆う。――その身体を、更に静雄の腕が包んだ。
どきん、と一際心臓が跳ね上がる。これだけで呼吸が詰まる自分が、キス以上なんて持つのだろうか。
煩く騒ぎ立てる胸に反して固まった身体。その耳元に温かな吐息がかかり、囁いた。

「嬉しい」

そんな声で言うなんて反則だ。今からそんなにドキドキさせないで。
顔を覆っていた手で、静雄の首に腕を回した。
耳元を擽っていた吐息が、生暖かな舌の感触に変わる。耳朶を甘噛みし、首筋にかけて舐り、鎖骨を辿った。
気道が勝手に狭くなる。感じたことの無い緊張からか、はしたない興奮からか。
鎖骨を降りた唇は、胸元の蕾に吸い付いた。

「ひっ、あ、んん…ぁ、ふ…」

熱い感触が敏感な場所を包み込む。舌先で執拗につつかれれば、腰が震えた。
片方は口で、もう片方は指で、痛みの伴わない甘いだけの愛撫に、頭はくらくらとしてくる。口付けとは違う、滲むような快楽。
震える腕の行き場を探して静雄の肩口を掴みその顔を見やれば、彼は焦燥したような、けれど何処か楽しそうな顔をしていた。
目が合い、思わず逸らす。唇を離した静雄は、臨也を見下ろすと乱れた髪を優しく梳いた。

「どうだ?」

「どうって…声聞けば分かるだろ…っ」

「ん、可愛い声だな」

よくそんな恥ずかしい台詞を言えるものだ。毒づいてやりたい気持ちは山々だが、それだけの余裕もなく、ただ顔が火照る。
代わりに掴んだままだった肩を叩いてやろうとするも、下肢に不意な感覚が走って思わず変な声をあげた。
静雄の手は臨也の下肢に伸び、布越しに中心に触れる。痛いくらいに跳ね上がった鼓動は耳まで響く。
他人にこうして触れられるのは初めてだった。強弱をつけて握り込まれれば、勝手に呼吸があがる。

「ふ、あ、あぁ…っんゃ、ひ……」

「乳首弄られて、気持ち良かったんだろ?固くなってる」

揉み解すような触れ方に、逆に固くなっていく自分が恥ずかしい。けれど自分で制御など出来るはずもなく、下着の中が湿り気を帯びていくのがまざまざと感じられた。
布越しでこんな状態だと言うのに、直接触られたら――

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