30万打小説

□「満たしてよ」
1ページ/7ページ


静雄の家でのいつもの逢瀬。
たわいないお喋りをして、笑いあったり睨みあったり、痛くない力で叩かれたり。

――そして、恋人らしく、キスしたり。

「…ふ…はぁ、ん……ふゥ、」

「臨也、…は、ん……」

静雄の唇は激しさを増し、臨也の口内に分け入った舌は溶かすように甘い感覚を与える。
ふわふわ、とろとろ。意識が揺れ、腰の奥がざわめく。舌を吸われ、痛みと甘やかな感触に身じろいだ。
シズちゃんのキスは好きだ。求めるような舌の動きは的確に臨也を微睡みのような心地好さに落としていく。
――静雄が愛しいと思うまで女と付き合ったこともあったし、女とならキスもセックスもしたことがあった。愛情は無かったけれど。
女からすれば、自分のキスも静雄の物と同じくらい気持ち良いものだったか、自信はない。それほどに、彼の唇は淫らに甘やかに臨也を誘う。

そんな、いつもの感覚に身を委ねていた。
――しかしふと、静雄の手がもぞもぞしているのに気がく。
何も気にすることはないだろう。キスの激しさは相も変わらずだし。まぁ確かに口付けの最中他のことに気を向けられるのは好ましくないが――。
浮いた意識の中そう思いつつ、瞼を閉ざした時だった。

静雄の掌が、臨也の胸に触れた。
驚きに跳ねるが、静雄の唇は依然と臨也を苛む。
ちょっと、まって。言おうにも静雄の唇に吸い取られ、喘ぎにしかならない。
布越しの静雄の手は臨也の胸元をまさぐると、小さな突起を探し当て、指先がそれを摘み上げた。
ぞわり、と皮膚が粟立つ。状況が理解できないまま静雄の腕を退かそうとするも叶わず、静雄の手は服の中に侵入した。

「っぷは!シズちゃん、ちょ、っとぉ…ん、ゃあ、あ…っ」

静雄の指が、固くなり始めた蕾を捏ねる。途端に身体の奥に熱が生まれ、今まで出たことも無いような声が唇から零れた。
恥ずかしい。恥ずかしい。なのにその場所は馬鹿みたいに敏感で、高い声が自ずから溢れる。
男が乳首を弄られて身体が反応するのもわりと衝撃だったが、何も喋らない静雄の方が気になって仕方なかった。妙に神妙な顔をして、臨也を詰る。

止めて、と抵抗すれば。
臨也の身体は押され、後ろに倒れ込んだ。その身体を、静雄の腕が抱き締める。強く、強く、痛くなるほどに。
どきん、どきん、胸が煩い。身体は痛かったけれど、そんなことよりもこの状況の方が大事で。
臨也は焦りと羞恥のない交ぜになった声で彼に呼び掛ける。

「シズちゃん…っ、どうしたの…?」


「抱きたい」


あまりに唐突すぎる言葉だった。
ふえ、という情けない声が漏れて何も喋れなくなった臨也に、静雄は掠れた声で囁きかける。

「手前はキスだけで嬉しそうだし、俺もそれで臨也がいいなら構わないと思ってた。
でも、やっぱり俺は男だから…好きな奴に触れたいんだよ、だから…
いや、臨也が嫌ならやめるから」

手前は、男とするのは初めてだったよな。確かめるように言った静雄は抱いた腕を解いて臨也を見下ろすと、優しく笑って頭を撫でた。
慣れない空気に、臨也は曖昧な顔をする。嫌じゃない。けれどやっぱり、少し怖い。今まで、そんなに深く考えたことが無かったから。

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ