30万打小説

□Adult Sweets
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「シズちゃんは、俺が何を考えてるか、分かる?」

臨也は唐突に問いかけた。
ぱちくり、静雄は目を瞬かせる。それからすぅと細め、口角を結ぶ。

「…何か気に入らないって顔してるな」

「うん、正解」

臨也は口角をつり上げて笑って見せる。もっと上手く笑う予定だったのに、目は一寸たりとも笑えなかった。
静雄は、臨也をじっと見据える。その瞳は、何処まで相手を見通せるのだろう。臨也にも分からない。分からないくせに分かってほしい。強欲な奴め。

「じゃあ、もっと細かく分からない?難しいことを考えてるつもりはない」

「…言わなきゃ分からねぇだろ」

静雄は言った。目を細めたまま、眉間に皺を寄せて、苛立たしげに言った。
分からず屋。分からず屋。シズちゃんの馬鹿。最低。単細胞。気づけよ。だから、脳みそまで筋肉か、って言うんだ。馬鹿。
言って気づいてもらったって、意味が無いのだ。
きっと彼は、俺とはしたくないのだ。キスしかしないのだ。ディープキスも、セックスも、俺とはしたくない。したいとも思わない。――そういうことなのか?

瞼の奥が痛くなる。ぎゅ、と目を瞑って、それから臨也は静雄を睨み見た。

「あり得ない。本当にあり得ないよ。他人に理解されないからって、他人も理解しなくなったのかい?分からず屋にも程がある。反吐が出るよ」

「…は?手前に俺の何が分かる」

「じゃあ、シズちゃんは俺の何が分かるんだ。
同じことさ。分かりっこない。でも、恋人だよ?キスしたらそれで終わり?
俺は、それじゃ嫌だよ。足りない。触ってよ。照れるだけで熱くもならない」

「だ、から何、」


「なんで、キスしかしないの!!」


叫んでいた。喉が痛かった。
その瞬間に我に返り、頭が真っ白になる。
上手い誤魔化し方。回避の仕方。用件の丸め方。今までに学んだはずなのに、引き出しが開かないどころか引き出しすらも見つからない。
違うのに。こんな風に乱暴に言うんじゃないのに。

「は…?意味が、」

「それはこっちの台詞だよ。シズちゃんなんか、もう理解する気も失せた。
いいよ。帰る」

臨也はぷいと静雄から視線を逸らすと、立ち上がった。
結局、そういうことなのだ。――どうせ、彼とは上手くいくなんて思ってなかった。失敗しても、ただ喧嘩相手が減るだけ。
…でも確かに、憧れたのだ。指を絡めたり、唇を重ねたり、互いを求めたり、笑いあったり。
告白された瞬間に溢れた気持ちは、忘れられない。もっと楽しい毎日が待っているような、まるで何でも出来るようになったような、そんな高揚感すらあった。
なのに、苦しい。駄々を捏ねる子供同然な自分にも腹が立つ。

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