30万打小説

□Adult Sweets
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ちゅ、と愛らしい音が響く。
唇が離れ、臨也は息を荒くすることもないまま密かに溜め息を吐いた。
シズちゃんのキスは好きだ。優しくて甘くて、まるで割れ物に触るみたいなキス。
好きだ。嫌いじゃない。

「臨也?」

「ん、何?」

「ぼーっとしてる」

指摘され、臨也は隠すように笑う。
言え、言え!言うなら今だ!極自然な流れだ。恋人同士の、猥褻で甘い会話になる。そして、それから。

「……」

「…臨也?」

っあああ、もう!何でこれしきのことが言えない。苛立つ。自己嫌悪する。
普段は饒舌なのに、どうしてこんな時に限って動かないんだ。本当に苛立つ。
言え。言えよ…

「何でもない」

臨也は低く呟いて、八つ当たりに静雄の胸を叩いた。


付き合って半年。
臨也と静雄は、付き合い始めて半年のカップルだ。言葉にすると長く感じるが、体感すると極短い。
そう、短くて長い。

恋人を持つ友人同士の会話なら、一度は耳にする話題。
いつどこで、初めてキスした?ディープキスは?エッチは?今時の女子高生のきんきんした声が、電車だったりファミレスだったりでも容赦なく響く。
――じゃあ初めて彼とキスしたのは何時だったか。…確か、付き合って半月ほどだった。
…そうか、もうそんなに経つのか。そんなことを思い指折り数えれば、確かに5ヶ月と半月。
えっ、じゃあその次は?胸の中で、一昨日聞いた女子高生の会話が思い出された。
その次は。
…無いのだ。付き合って6ヶ月。キスをして5ヶ月と半月。なのに、それ以上は今まで一切無い。
うぶな中学生のカップルじゃあるまい、触れるだけのキスしか言葉以外の愛情表現が出来ないなんて。
キスは好き。でも、ディープキスだって、セックスだって、してみたい。
下手だから、と遠慮しているなら、ディープキスくらいは俺だって出来る。セックスは流石に男との経験は無いが、知識くらいはあるし。
下手だっていいのだ。痛くたって、煩わしくったって、触れ合いを求められることが嬉しいのに。
分かってない。分かってないよ。
けしかけるんじゃ嫌なんだ。我が侭だとは思う。けれど、腕を伸ばされたい。


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