30万打小説
□Trouble Travel
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「やっぱり東京より涼しいな、北海道は」
門田の台詞に、臨也は賛同するように頷いた。隣では居眠りしていた静雄が、バスから降りたばかりの寝惚けた目を擦りながらぼんやりとしている。更にその向こうでは、新羅が相変わらず落胆の表情を浮かべていた。
臨也は静雄をちらりと見て、それから何も無かったかのように新羅に冷たい視線を送る。
「…いい加減、鬱陶しいんだけど」
「だって!修学旅行なんていう憎い行事のせいで、愛しい人に会えない日が二日も続くんだよ!?耐えられないよ!!臨也だって耐えられないだろ!?」
「…別に」
半ば悲劇のヒロインじみてきた新羅の言葉を無視して、臨也は門田の後について歩きだした。
…後ろからついてくる、覚束ない足取りの静雄を横目に見ながら。
臨也にしてみれば、今日から二日は愛しい人と一緒にいられる、楽しみで仕方がなかった修学旅行だ。
…でもシズちゃんは、そんなこと思ってないんだろうな。
相も変わらず欠伸をする静雄を睨みつつ、臨也は誰にも気付かれないように溜め息をついた。
喧嘩相手である静雄が好きだなんて、馬鹿みたいだ。自分でもそう思うけれど、だったらどうすれば嫌いになれるのかが知りたい。幾ら苛立っても、嫌いになんかなれないのだから。
…でもきっと、所詮報われない片想い。どんなに深く愛しても、見返りは痛みでしかないのだろう。
…だから、この修学旅行は叶わない想いを抱えている俺へのご褒美なのだ。
「…何見てやがる」
ぼんやりとしていれば、いつの間にか静雄を見ていたらしい。低い声で唸られ、臨也は誤魔化すようにせせら笑った。
「シズちゃんなんか見てるわけないだろ。自惚れも大概にしなよ」
「あ゛あ!?」
いつもの勢いで喧嘩しそうになれば、修学旅行中は面倒ごとになるからやめておけ、と門田に止められ、その場は収まった。
…いつもこうだ。何を言われても喧嘩腰な対応をしてしまう。喧嘩がしたいわけでもないのに。
何か仲良くなれる切欠があったらいいのに。――まぁ、きっとそんなものがあっても、無駄に終わるんだろうけど。
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