30万打小説

□甘い微熱
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「38度あるじゃねぇか…平熱何度だ?低いだろ確か」

「…36度無いくらい」

「手前、よくそんな状態で外に出たな」

呆れたような声に、悪かったな、と悪態をつく。
事実、身体はだるくて仕方がない。頭は痛いし、寒気がする。身体が動くことを拒否でもしているように重くて、ベッドに沈んでしまいそうな気すらする。

「朝は何か食ったか?」

「食べてない。食欲ないし」

「風邪はしっかり食ってしっかり寝るのが一番の薬なんだよ。飯作ってやるから待ってろ。ちゃんと飲み物は飲めよ」

静雄はてきぱきとそう言うと、枕元に水を置いて寝室を出ていった。
…何だか申し訳ない。折角の二人で過ごす休日を、看病に使わせてしまうなんて。しかも至れり尽くせりだ。嬉しくはあるが、同じだけ申し訳なくなる。
でも、だからと自分が何をしてあげられるのだろう。直ぐに完治するのが一番だとは分かっているが、思うだけでは治りっこない。
はぁ、と溜め息を吐けば、熱い空気が漏れる。何だか恨めしくて、追うように出た咳を噛み殺した。



「シズちゃんもお粥なんて作れるんだね。インスタントしか作れないと思ってた」

「余計なお世話だ。…ほら、食え」

差し出された器には、湯気の立つ卵の入ったお粥がたっぷりつがれていた。
食欲はないが、人間とは単純なものだ。例え意気阻喪するようなことがあっても、その落胆を上回る嬉しいことがあれば、そんなものなど無意味になる。

「…ありがとう」

その器を受け取って、差し出されたスプーンで口に運んだ。
熱い。…でも。

「どうだ?」

心配そうに、けれどそれを隠すような口調で尋ねた静雄へ、臨也は素直に笑って見せた。

「おいしい」

その顔はぱっと一瞬綻ぶも、誤魔化したようにすぐ刺々しくなる。
当たり前だろ。意地を張ったようにそう言った声がほんの少し嬉しそうだったのを聞きながら、臨也も嬉しくなった。


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