30万打小説

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「ドタチン!」

門田は、見つけた姿に手を振り返す。笑った臨也は、ぱたぱたと門田に走り寄った。

「ごめんね、ちょっと新羅の家に寄ってたから遅くなった」

「いい、気にするな。…これからどうする?」

「ん、ドタチンの家で良いよ」

微笑んだ臨也の手を取り、門田は歩き出す。恥ずかしいよ、と困ったように言った臨也に、別に大丈夫だろ、と微笑んで、門田は自宅へ歩き出した。

臨也が門田の恋人という存在になってから、もう1ヶ月が経つ。丁度、彼が静雄と別れたのも1ヶ月前になる。
門田の隣を歩く臨也は、明るい。逆にその明るさが、心配になるくらい。

しかし勿論、臨也本人にそんなことを言うはずもなく、言う必要もきっとなく。
門田は、臨也の手を引いた。


家に着けば、臨也は最早慣れたように門田の隣に腰を下ろす。
テレビ見ようよ。今の時間何やってるっけ。ドタチンは何が好き?
チャンネルを変えながら問いかけてくる臨也。その横顔にぼんやりとしていた門田は言葉を咀嚼出来ず、聞いていなかった、と謝る。
ちゃんと聞いててよ、と臨也は唇を尖らせ、それからにやりと詰るように笑って見せた。

「ドタチンまさか、俺が隣にいるから緊張してるとか?」

「っは?、ったく、今更緊張なんか無いだろ」

「――、」

「臨也?」

不意に黙り込んだ臨也を覗き込めば、僅かに複雑な顔をしていた。触れるべきでは無いものに触れたのは明白で、理由は何にせよ謝らなければ、と口を開こうとすれば。


「ドタチン、キスしよ」


不意に紡がれた台詞に、門田はまさかこのタイミングで言われるとは思ってもいなかったため、目を瞬かせざるをえない。
だめ?と切なく問われた声に、門田は笑って見せる。良いよ。そう返せば、臨也はほっとしたように目を細めると、門田に抱きついた。
それから、臨也は唇を結んで顔を上げる。やはりどぎまぎとする胸は押さえられないまま、門田も臨也の頬に掌を添えた。

――唇が重なる。
柔らかい感触が触れ、優しく包まれるような体温が伝わる。

ゆっくりと唇を離すと、臨也は普段のような笑みを作ることもせず、直ぐに顔を俯けてしまった。
臨也、と呼びかけ顔を上げさせようとするも、臨也は意地でもそれを拒む。
掌を添えたまま、どうしたんだ、と尋ねれば。
手の甲に、生暖かい感覚が流れた。驚いて覗き込めば――

臨也の瞳からは、涙が溢れていた。
見られたことに気がついた臨也は、焦ったように顔を上げる。はは、何これ。ごめんね。笑って言った臨也だったが、その瞳から溢れる涙は止まらない。
それでも笑う臨也が、痛くて、切なくて。

門田は、臨也を強く抱き締めた。
身体を緊張したように固めた臨也。
その頭を抱き、門田はキリキリと痛む胸で呟いた。


「泣くなら…なんで、静雄と別れたんだよ、手前は…!」


臨也はびくりと身体を震わせ、そのまま黙り込む。
その肩が小刻みに震えだし、う、う、と嗚咽を無理矢理飲み込む音が、臨也の喉から漏れだした。しかしそのうちに押さえられなくなったのか、子供のような泣き声が肩口の臨也から響きだした。
悲痛な泣き声。それは、悲鳴にすら聞こえて。
だって。嗚咽に埋もれながら紡がれた声に、門田は優しく肩を抱く。
臨也は咽び泣きながら、門田の服をぎゅうと握りしめた。

「だって…!あのとき、シズちゃんはっ…俺を、突き放し、たんだよ…っ!幸せに、なれって!
…付き合わなきゃ、良かったって、言ったくせにっ…!」


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