30万打小説

□2
1ページ/7ページ


「静雄、最近見かけるかい?」

新羅の静かな声に、臨也は俯いたまま首を横に振った。
出されたアイスコーヒーに添えた手は、ひんやりと冷たい。それでも離すことは出来ず、臨也はグラスをきゅうと握りしめた。

「まぁ、臨也自体、池袋にはあまり来てないんだろう?静雄も気付いても追わないようにはしてるだろうし。
あ、今日は何の用で池袋に来たの?まさか僕に会いに来るためだけに池袋に来るはずが無いよね?」

「…当たり前だろ」

はは、と笑った新羅は、セルティのロゴの入ったマグカップを傾ける。
それから再び落ち着いた調子に戻ると、他人を探るような笑みを浮かべ、口を開いた。

「記憶は戻った?」

その言葉に、臨也は新羅を睨む。
戻ってないよ。一言吐き捨てグラスを呷り立ち上がると、相も変わらずのジャケットを羽織り、臨也は新羅の家を出た。
消えていった後ろ姿を眺め、新羅はコーヒーを啜りながら目を細める。

「…何でだろうね、」

新羅の呟きは、コーヒーの香ばしい匂いの残る部屋に、誰の耳にも届かずに消えた。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ