30万打小説
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「静雄、最近見かけるかい?」
新羅の静かな声に、臨也は俯いたまま首を横に振った。
出されたアイスコーヒーに添えた手は、ひんやりと冷たい。それでも離すことは出来ず、臨也はグラスをきゅうと握りしめた。
「まぁ、臨也自体、池袋にはあまり来てないんだろう?静雄も気付いても追わないようにはしてるだろうし。
あ、今日は何の用で池袋に来たの?まさか僕に会いに来るためだけに池袋に来るはずが無いよね?」
「…当たり前だろ」
はは、と笑った新羅は、セルティのロゴの入ったマグカップを傾ける。
それから再び落ち着いた調子に戻ると、他人を探るような笑みを浮かべ、口を開いた。
「記憶は戻った?」
その言葉に、臨也は新羅を睨む。
戻ってないよ。一言吐き捨てグラスを呷り立ち上がると、相も変わらずのジャケットを羽織り、臨也は新羅の家を出た。
消えていった後ろ姿を眺め、新羅はコーヒーを啜りながら目を細める。
「…何でだろうね、」
新羅の呟きは、コーヒーの香ばしい匂いの残る部屋に、誰の耳にも届かずに消えた。
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