30万打小説

□君は恋人
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一週間前。時間にしたら、たった168時間前。
俺は、シズちゃんに告白された。
俺にしてみれば、もう幾年も前から愛しかった相手だ。断る理由もない。
…そんな感じで、俺とシズちゃんは結ばれた。


臨也は、そんなことを思い出しながら街中を歩いていた。
――幸せと言えば幸せ。
だが実際、何が大きく変わったわけでもない。喧嘩は相変わらず。甘い言葉も無いし、応対が変わったわけでもない。

…けれど。
勝手ににやけそうになった頬を摘まんで、昨日の感触を思い出す。
――昨日は初めて、キスをした。
静雄の家に上がらせてもらい、たわいないことを話していた時のこと。
不意に重なった唇に、臨也は一瞬で真っ赤になった。林檎みてぇ、と言って笑った静雄の顔も、ほんのり染まっていて。
恋人同士なんだな、なんて、改めて思ってしまった。

それを思えば、幸せに違いない。
…しかし、幸せに付きまとうのが不安という奴だ。
一生叶わない――そう思っていた感情が溶けて消えたのと同時に沸き上がってきたのは、同じだけの不安。
先刻まで幸せそうに綻んでいた頬を歪めて、はぁ、と溜め息を吐いた。

きっとこんな不安、彼は分かってくれないだろうけれど。
否、別に静雄を信頼していないわけではない。信頼だとか疑心だとかそんな話ではなく、ただ一方的に不安なだけ。
…そう、思っている。

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