30万打小説

□交戦奇想曲
3ページ/5ページ


倉庫の中は奥だけ蛍光灯が取り付けられている。その辺りには十数人の男がいた。
走り込んできた静雄の存在に気づいた男たちはばっと振り返り――それが静雄だと気づくや否や、各々でバッドやら工具やら武器を持ち出した。
堅気ではない。肌で感じるには充分な威圧感が、静雄に突き刺さる。
しかしそれをものともせず、静雄はある程度近寄り、足を止めた。

「平和島静雄が、ここに何の用だ?」

「…臨也は何処だ」

「臨也?誰だよ、それ」

鉄パイプを肩に担ぐ男の言葉に、静雄は一言、返せ、とだけ言った。
男は眉をひそめ、否定の言葉を吐こうと口を開く。
――しかし、その声は金属を叩くような音に遮られた。

かん、かん、と酷く弱々しい音。しかし、目の前の男が焦燥したように振り返り、他の輩も焦りを滲ませて同じ方向を見る。
男が一人こっそりと、積み上げられた木材と壁の隙間に消えた。

…間違いない。臨也はここにいる。

静雄は唇を噛むと、勢いよく走り出した。
驚いた男たちは、個々の武器を振り上げて一斉に静雄に襲いかかる。
…しかし、静雄には敵ではなかった。
襲いかかってきた男をひっつかみ、力ずくで振り回す。幾人かが飛び、それを乗り越えるように新たな人間が静雄に襲いかかる。足で、拳で、肘で、静雄はその力を男たちに見せつけた。
戦意を喪失した者は逃げ出し、勇敢に挑んだものは床に折り重なり…
静雄の回りは、痛みに呻く男たちの山だけとなった。

静雄はそれには目もくれず、木材と壁の間へ向かった。
胸はどくどくと煩い。足がふらつきそう。
堪えて、走れば。

そこには、探していた黒い姿があった。
とは言っても、口元を布で塞がれ、手は後ろで纏められ、足も縛られている。先刻の金属音は、壁をどうにか蹴ったのだろう。
口を塞ぐ布をほどいて、順々に腕と足もほどいてやれば、臨也は大きく息を吐き――その瞳が、みるみるうちに潤んだ。

「シズ、ちゃ…っ」

「――よかった」

静雄は無意識のうちに臨也を抱き締めていた。
良かった。いた。ただそれだけが嬉しくて、安堵して、目頭が熱くなる。

――しかし、臨也は静雄の腕の中で暴れた。
止めろよ、と、離せ、と。
勿論そんなことを言われれば離すしか道はなく、静雄は臨也をゆっくりと離した。
…やってしまった。こんなの、気持ち悪がられるに決まっているのに。
臨也は、瞳いっぱいに涙を溜めて、今にも泣き出しそうな声で叫んだ。

「何で助けに来たの…!?馬鹿にしたかったの?俺がヤクザに捕まってるのを!」

「は、そんなわけ…」

「じゃあ、なんで…っ、どうしてシズちゃんなの!?
俺を殴ったくせに、なんで助けたりするんだよ…!」

「……ッ」

きっと、腕を負傷していた臨也は抵抗もままならないまま捕まり、ここに連れてこられたに違いない。
そして、誰かに気付かれることを願って携帯を落としたのだろう。
それを見つけたのが、よりによって原因であり大嫌いな相手の静雄だった。きっとそういうことだ。
恨まれても仕方がない。俺のせいだ。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ