30万打小説

□Peaceful Days
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それは、あるお休みの日のこと。

「いーざーやーくーん!おーきてー!」

耳から脳まで響いた声と身体への重圧に、臨也はゆっくりと瞼を上げた。
今日は仕事も入れておらず、朝はのんびり寝る予定だった。
…しかし、頭に響く声に起こされた時間は午前7時。のんびりの欠片もない。

「サイケ…もう少しゆっくり寝かせてよ、仕事無いんだからさ…」

「だーめー!さいけ、いざやくんとあそびたいーっ!」

自分と酷似した顔を持つサイケは、臨也の上に乗りながら不服を滲ませて言う。まるで子供のような駄々に、臨也ははぁと溜め息を吐いた。
子供のような口調で、その上普段は子供そっくりなのだが、モデルに似たのか意地を張るときはああ言えばこう言う。故に一向に埒があかないのがオチだ。

「とりあえず、サイケが退いてくれなきゃ起きれないだろ?」

「あ!そっか。さいけばかだねー」

えへへ、と照れたように笑って退いたサイケは、臨也が起き上がるのを今か今かと待つ。このまま再び微睡みに落ちてしまいたいくらいだが、そんなことをすればサイケにまた腹に乗られかねないだろう。
仕方なしに起き上がろうとした時だった。

「お、臨也起きたのか」

不意に寝室に入ってきた姿は、サイケの配色と似ている姿。とは言っても、金髪の髪と着崩したスーツがホストのような印象を与えてくれる。
これもまた、静雄に似た見た目に対して中身は全くの別人のデリックだ。

「でりっくだぁ、おはよー」

「サイケおはよう。臨也もおはよ」

臨也に近寄りながら、背景に花が飛ぶような笑顔を見せたかと思えば。
デリックは、臨也の頬に口づけをひとつ。そのすぐ後に、ああ!とサイケが叫び声をあげる。

「だめ!でりっくばっかりずるい!さいけもいざやくんにちゅうするー!」

「ダメダメ。お子さまには早い。サイケにも俺がしてやろうか?」

「やだ!でりっくは“たらし”だからだめって、つがるがいってたもん!」

津軽はデリックには冷たいな。きっとサイケが自分以外に甘やかされているからか。津軽は兄貴分のような存在のくせに、その辺は嫉妬深い。
デリックとサイケの会話は可愛らしくはあるものの、今の耳には堪える。
言い合いをしていれば再び寝てもばれないだろう、と布団を頭まで被った時だ。

「こらサイケ、あんまり煩くすると臨也さんに迷惑だぞ」

響いた声に、噂をすれば、と臨也は救われた気分で更に布団に潜った。
フライ返しを片手に部屋に入ってきた津軽は一度デリックを睨むと、サイケの頭を撫でる。
サイケは津軽に怒られたのがショックだったらしい。先刻までの威勢は何処へやら、今では叱られた犬みたいに萎んでいる。

「ごめんなさい、さいけ、いざやくんとあそびたくて…」

「昨日まで仕事をしていたから、きっと臨也さんも疲れてるんだよ。起きたら遊んでくれるから、あっちで一緒に朝ごはんを作って待ってよう」

「わかった、さいけもおてつだいする!」

津軽はサイケを手懐けているなぁ、と布団から顔を出せば、気遣ったような津軽の顔が見えた。本当に手間のかからない奴だ。
本人もこれくらい手間がかからなきゃいいのに。


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