30万打小説

□Again and Again
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『――俺が死んでも、シズちゃんは死なないでよ。
生まれ変わったとしたら探すから、もう一回、好きになって』

遠い遠い、鮮明な記憶。もう何十年と前の記憶。
…忘れられない、大切な、大切な――




静雄は、仕事を終えて帰路についていた。
風貌は高校生さながら…と言うより、高校生だ。中身は、もう何十年と生きた大人で年寄りと言っても語弊は無いが、自分が気に入らないので認めない。
身体が若ければ案外思考も若くいられるのだ、と知った。

静雄は吸血鬼だ。
17歳の頃、とある人物が切欠で不老不死の身体を手に入れた。
ゲームや本の中の不老不死は、その異世界のうちだからいい。
現実は、吸血鬼だなんて言えば頭のおかしい人扱いだし、外見が変わらなければ誰か彼かが奇妙なものを見るような目で見てくる。故に、もう数えられないほど引っ越しを繰り返してきた。
昔はもう一人、共に身を隠してきた吸血鬼もいたが、――とあることが切欠で、その吸血鬼とは離れて住みだした。今は彼が何処に居るかも知らない。

その人とも再会できたらいいと思いながら――静雄は、人を探していた。

どんな風貌をしているかも知らない。男かも女かも分からないし、年寄りではないというくらいで詳しい年齢も分からない。寧ろ、生まれているかも定かではない。
…何より、彼方は自分のことなど記憶に無いのだろう。

来神学園に、学生として身を置いていた、もう50年以上前のこと。
初めて、心から愛しい人が出来たあの時。
辛い思いも悲しい思いもした、それでも忘れられない記憶。
今も、彼は静雄の想い出の中で笑っている。シズちゃん、と嬉しそうに愛しい彼を呼びながら。


「――臨也、」


今、お前はどうしてる?
この世界で、同じ空を見ているのか?
笑っている?泣いている?
…誰か、愛しい人がいる?
俺は、あの頃から片時も手前を忘れたことがない。
もし再び会えるなら、もう一度愛したい。手前が、それを許してくれるなら。

夜の闇は、静雄の痛みを探る。
また今日も逢えなかった、と、もういつから数えているか分からない夜を越しながら、静雄は瞼を閉ざした。




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