30万打小説
□嘘つきの「大嫌い」。
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「何で、ここまでわざわざ来たんだよ…俺は、会いたくなんか無かったのに」
だから帰ってよ、と低く言えば、静雄の拳が握られた。
何も言わずに帰ってよ。お願いだから――
「帰れって言われると帰りたくなくなるに決まってるだろ」
どうして。何で。
「手前は人を怒らせることしか能が無いんだからよ」
ひぅ、と喉から擦れた息が漏れた。
苦しい。辛い。もう嫌だ。やだ。
「勝手なこと言わないでよ!!」
叫んだ声に、静雄の肩が震えた。
その顔が見られなくて、臨也は俯いたまま静雄を玄関の外へ押し出そうとするも、彼の体は動きやしない。
それでも、押して、押して。
「止めてよ!俺はそんな価値もない人間なの!?
もうやだ、いやだよ…っ、そんなに嫌なら殺せばいいだろ、なのになんで…っどうして…!」
頭が痛い。自分が何を口走っているのかも、頭は追い付けていない。
ただ、もう堪えられなかった。ずきずきと胸は痛んで、傷口から溢れる感情が何もかもを染めていく。
こんなに好きなのに。
俺は邪魔者だろ?俺は有害物だろ?
分かってるよ。分かってる。それなら殺せよ。喧嘩しに来るくせに、殺す憎悪など有り余ってるくせに――
「殺せよ――」
「臨也!!」
耳に刺さるような声。それと共に、臨也の身体は拘束された。
――他でもない、静雄の腕に。
自分のものではない匂いが鼻を擽る。外気とは違う温度と、身体を締め付ける感触。
あまりに突然であまりに驚くべきことに、臨也は呼吸すら止めて固まった。そのくせに、胸はけたたましい音を鳴らし始める。
「殺せるわけがねぇだろ…馬鹿だろ、手前は」
「ッ、」
胸をかきむしられるようなもどかしい痛みが走る。
静雄を突き放そうとすれば、逆に強く抱き締められた。
「本心で手前を池袋から追い出してたなら、此処まで来るはずがねぇだろ…」
「…は?」
「別に、手前との喧嘩は嫌いじゃねぇし…
大体、俺の言葉は全部……隠してるっつーか…」
最後は口ごもるように言われた言葉。
言葉は理解できる。…でも、中身が理解できない。
わざわざ新宿まで来た。俺との喧嘩は嫌じゃない。彼の言葉は隠している。言い方からして、照れ、を。
――どういうこと?
「い、みが…分かんない」
軋んだ胸は、求めた。
彼の唇から紡がれる言葉を。それが期待しているものであることを。
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