30万打小説

□嘘つきの「大嫌い」。
3ページ/6ページ


「何で、ここまでわざわざ来たんだよ…俺は、会いたくなんか無かったのに」

だから帰ってよ、と低く言えば、静雄の拳が握られた。
何も言わずに帰ってよ。お願いだから――

「帰れって言われると帰りたくなくなるに決まってるだろ」

どうして。何で。

「手前は人を怒らせることしか能が無いんだからよ」

ひぅ、と喉から擦れた息が漏れた。
苦しい。辛い。もう嫌だ。やだ。


「勝手なこと言わないでよ!!」


叫んだ声に、静雄の肩が震えた。
その顔が見られなくて、臨也は俯いたまま静雄を玄関の外へ押し出そうとするも、彼の体は動きやしない。
それでも、押して、押して。

「止めてよ!俺はそんな価値もない人間なの!?
もうやだ、いやだよ…っ、そんなに嫌なら殺せばいいだろ、なのになんで…っどうして…!」

頭が痛い。自分が何を口走っているのかも、頭は追い付けていない。
ただ、もう堪えられなかった。ずきずきと胸は痛んで、傷口から溢れる感情が何もかもを染めていく。
こんなに好きなのに。
俺は邪魔者だろ?俺は有害物だろ?
分かってるよ。分かってる。それなら殺せよ。喧嘩しに来るくせに、殺す憎悪など有り余ってるくせに――

「殺せよ――」


「臨也!!」


耳に刺さるような声。それと共に、臨也の身体は拘束された。
――他でもない、静雄の腕に。
自分のものではない匂いが鼻を擽る。外気とは違う温度と、身体を締め付ける感触。
あまりに突然であまりに驚くべきことに、臨也は呼吸すら止めて固まった。そのくせに、胸はけたたましい音を鳴らし始める。

「殺せるわけがねぇだろ…馬鹿だろ、手前は」

「ッ、」

胸をかきむしられるようなもどかしい痛みが走る。
静雄を突き放そうとすれば、逆に強く抱き締められた。

「本心で手前を池袋から追い出してたなら、此処まで来るはずがねぇだろ…」

「…は?」

「別に、手前との喧嘩は嫌いじゃねぇし…
大体、俺の言葉は全部……隠してるっつーか…」

最後は口ごもるように言われた言葉。
言葉は理解できる。…でも、中身が理解できない。
わざわざ新宿まで来た。俺との喧嘩は嫌じゃない。彼の言葉は隠している。言い方からして、照れ、を。
――どういうこと?

「い、みが…分かんない」

軋んだ胸は、求めた。
彼の唇から紡がれる言葉を。それが期待しているものであることを。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ