30万打小説

□嘘つきの「大嫌い」。
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「何もすることが無いなら仕事手伝うくらいしたらどうなの?私が来る前は自分でしてたんでしょ?」

波江の刺々しい声に、臨也は机に俯せたまま曖昧な返事をした。

――あれから一週間、臨也はあれほど足繁く通っていた池袋へ足を運ばなくなった。
故に事務所に入り浸ることも多くなったのだが、外出する意味すら見出だせず、況してやこんな気分の時にパソコンをいじる気にもならない。

「…貴方が仕事進めないから、終わったわよ」

「んー…給料はいつもと同じ分出すから、帰って良いよ」

「それなら、まだ何か仕事やれば、残業手当でも出るのかしら?」

「…口が達者なことで、」

その言葉は、見るからに落ち込む臨也を元気付けるために言ったのか、それとも嫌味紛いに言ったのか。
彼女の全てを知っている訳ではないが、おそらく前者だ。そう思いながら波江を帰した。

いい加減、諦めろ。
辛いじゃないか。切ないじゃないか。もう限界のくせに。
傷付いた胸からは、いつまでも真っ黒な感情が溢れ続ける。立ち直ることすらさせないとでも言いたげに。
会いたい。でも、傷の塞がらない今会ったら壊れてしまう。どす黒い感情に呑まれてしまう。
だから、せめてあと少し――



ピンポン、という軽やかな音に、臨也は頭を上げた。
霞んだ視界で状況を確認し、あのまま寝てしまっていたのだと思い返す。
窓の外は暗い。もう夕暮れ時も過ぎ、太陽の代わりのネオンが街を照らしている。
再びチャイムが鳴り、臨也は思い返して重い腰を上げると、眠たい目を擦りながら玄関へ急いだ。
未だに少し霞んだ視界のまま、扉を開ければ。

「何で早く出ないんだよ手前は」

一週間聞いていなかった声が、苛立ちを孕んで臨也に言った。
ずき、と胸が痛み、傷口が裂ける。

「シズ、ちゃん…」

どうしてここに。なにをしにきた。
ぶわり、と胸中に広がった言葉の渦からは何も抜け出さず、臨也の唇は呼吸すら出来ないまま止まった。
黙ったまま目を見開く臨也。サングラスの下の瞳の表情は見えないが、静雄は一瞬唇を噛み締め、それから口を開いた。

「ストレスが溜まったから、手前に吐き出そうと思って来てやった」

――違うよ。俺は、ストレスを発散させるためのモノじゃないよ。ちゃんとした人間で、意志があって。痛いことはたくさん経験して。
…なのに、何も分かってもらえない。
こんなに、好きなのに。



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