30万打小説

□嘘つきの「大嫌い」。
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叶わない恋とは、正にこのことだ。

「消え失せろ、臨也くんよォ!!」

「煩いな、公害だよシズちゃんの声は!」

池袋の日常に紛れる、非日常的な日常。
その渦中にいる臨也は、この辺りの裏の人間で知らない奴はモグリだと言われるほどに腕の優れた情報屋だ。

…そんな臨也が堅気にも顔が割れている理由は、それこそこの平和島静雄のせい。池袋に来る度に追いかけ回されていれば、嫌でも知られてしまう。
――まぁ、それが仕方ないことだと思ってしまっている自分も自分だ。
これ以下にはなりたくない。けれど、これ以上の関係は望むのも愚かしい。
馬鹿かもしれない。いや、馬鹿だ。きっと、静雄とは違う意味で馬鹿なのだ。
毎回毎回、酷い言葉を背に浴びて、その度に傷を増やして、その傷を眺めて更に傷付いて。なのに。

シズちゃんが好き。

好きなのだ。喧嘩相手だと分かっているのに、彼に好意などあるはずもないのに、心だけが勝手に惹かれていく。
彼を罵れば罵るほど、何が本心なのか分からなくなる。唐突に口走ってしまいそうな気がする。
彼に罵られれば罵られるほど、不可能を悟る。愛しさは膿んだ傷口のように酷くなっていく。

いくら愛しても、愛し返されはしない。
諦めればいいものを、仕事のため、趣味のため、と何かしら口実をつけて、俺は池袋に彼に会いに来ている。
叶わない恋だというのに。



「俺の目の前を走るんじゃねぇ、ノミ蟲のくせに!」

いつもと変わらない罵り。ずきり、と刺さる痛みに傷が増える。
それでも臨也は、笑う、笑う。

「シズちゃんにそんなこと言われたくないな!」

「あ゛あ!?手前だから言うんだよ!」

シズちゃんにとって、俺は目に見えない方がいいモノ?ぞんざいに扱うのが正当なモノ?
ほら、また傷が増える。

「シズちゃん、」


「俺の名前を呼ぶんじゃねぇ!
大嫌いなんだよ、手前なんか!!」


どくん。痛いほどに跳ね上がった胸。
裂けた無数の傷口からは、痛みと哀苦が流れ出す。
ずきずき、どろどろ。膿んだ傷口から溢れる感情は、臨也の胸を黒々と染めた。

「――臨也?」

居たたまれなかった。
息すら苦しくなって、臨也は走った。普段よりも幾分全力で走ったせいか息は切れたけれど、振り向いても誰もいなかった。
ほ、と荒くなった息の最中安堵を吐き出せば、視界が霞がかる。鼻の奥が痛くなって、目がじわりと潤った。
頬を伝った滴は生暖かくて、彼よりも涙の方がよっぽど優しかった。




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