30万打小説

□アンニュイアンサンブル
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臨也は昨日、遅くに帰宅した。
波江に鍋を作らせ、どうせだから一緒に食べようと誘っていたものの――仕事として情報取引をした相手との会話が有益かつ存外楽しく、予定より2時間オーバーして帰宅した。
時間は23時。夕食という時間帯も疾うに過ぎている。
流石に帰宅しているだろう、と思いきや――

「…どういうつもりかしら」

玄関へ入ってすぐかけられた禍々しさすら感じる声に、心底意外だと思いながら声の方を見た。
そこには、何か汚らわしいものでも見るような顔をして此方を睨む波江の姿があった。
思っていたよりも薄情では無かったのか、と思いつつ、臨也は尋ねる。

「帰ってなかったの?」

「貴方が鍋作って待っていろって言ったから、待っていてあげたんじゃない…」

言われて、確かに部屋の奥から美味しそうな匂いが漂ってくるのに気がつく。
ごめんねー、と笑いながら軽く言えば、波江は気に入らなかったのか仁王立ちし、玄関から先に臨也を通そうとしない。
横をすり抜ければ通れないこともないのだが、彼女にしては子供っぽい行動をするものだ、と面白がって見ていれば、嫌悪を露にさせた声で臨也を罵りだした。

「わざわざ待ってあげていたのに、連絡のひとつも入れられないのかしら。
今日は誠二のことが何も無かったから良かったけど、何かあったなら貴方が責任取るのよ、分かってる?死んで詫びても足らないわよ。存在価値が違いすぎるもの」

「わー、波江さん毒舌だね、それを言うために待ってたの?」

空笑いをしながら波江を見れば、嫌そうに顔をしかめ――それから、ふ、と何処か楽しそうに笑った。
あまりにも予想外な突然の表情に目を丸くする臨也へ、波江は笑みに反して毒々しく口を開く。

「鍋、食べなさいよ。殆ど野菜だけど」

「え…、野菜あんまり入れるなって言っただろ」

「あら、料理なんて調理人の権限で決まるのよ。それに、今回は貴方が悪いわ。食べないっていう選択肢は無し」

早口に言われた言葉に、反論する隙もなく。
臨也は半ば波江に押し付けられるような形で、渋々野菜を食べた。



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