30万打小説

□アンニュイアンサンブル
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「あれ、イザイザじゃない!?」

門田は隣からかけられた好奇心の混じった声に、指された先に目を向けた。
黒。上から下まで異様なほどに黒を纏う姿があり――向かってきたワゴン車に気がついた臨也は、漆黒にぽっかりと浮くような白い手を此方にひらひらと振った。

臨也は、学生時代からの友人だ。
昔から静雄とは違った意味で人間離れして、そして欲望に関しては誰よりも人間らしかった。

渡草にワゴン車を止めさせ、此方に爽やかな顔で歩んできた臨也は、門田の隣にいる黒に身を包む女を見て一瞬ひきつった顔をする。
どうしたのだろう、と思ったものの、何も言わずにいれば。

「今日こそ白状してよ、イザイザ!シズちゃんとはデキてるんでしょ!?」

――思わず吹き出しそうになった。
臨也はその応対に慣れが生じてきているのか、だから違うに決まってるだろ、と眉を寄せて低く唸る。そう言えば、昨日も狩沢が話題に出していたことだ。下らない、と聞き流していたが。

「もう、いい加減クーデレもほどほどにしなさいよ、BLに特化した私の目は誤魔化せないわよ!
オフ友が、シズちゃんとイザイザが二人で歩いてるのを目撃してるんだからね!」

興奮を隠すことなく言った狩沢。臨也は一瞬動揺したように肩を強張らせ――それから、嘲笑を浮かべて見せた。

「騙されてるんじゃないの、君。有り得ないこと言わないでよ」

「私の健全な腐女子友達が嘘なんか吐くはずがないじゃん!もう、そうやって誤魔化そうとして、ますます怪しい!
まぁ、私も仕方ないと思うよ。イザイザ顔綺麗だし、細いし、クーデレだし!その分シズちゃんはかっこいいし、力持ちだし、直ぐに怒るわりに包容力があるのは間違いない!しかも仲が悪いなんて!
こんなにカップリング要素が揃ってるのに、付き合ってないはずがないじゃん!」

――流石狩沢。しかし腐女子の時点で既に健全ではないのでは。半ばそんな目を向けつつ、臨也を見れば。
…臨也の顔はほんのりと赤く。
狩沢の台詞の真偽はさておき、これ以上臨也が弄られ続けるのは不憫で見ていられない。
それくらいにしておいてやれよ、と不満を顔に滲ませる狩沢をワゴン車へ押し戻し游馬崎に預けると、暇だと言う臨也に付き合って、二人で少し歩くことにした。

「今日は仕事か?」

「ん?今日は趣味。簡単な仕事は部下に任せっきりだからね。
――何て言うか、彼女も扱いづらいと言うか…」

そう言って空笑いを零す臨也へ、どうしたんだ、と問い掛ければ、臨也は一瞬固まり、それから溜め息を吐いた。
いや、あれは元はと言えば俺が悪いんだけど。そう呟いた臨也は普段より覇気がない。
厄日が続いているのだろうか、と思いながら、何でも聞くぞと声をかけてやれば、臨也は、じゃあ話しちゃおうかな、と苦笑と共に重い口を開いた。



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