30万打小説

□「すき」
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人間と言うのは不平等だ。
勿論、差がなければ楽しくないが――この差はあっても嬉しくない。

臨也はファミレスの窓際の席で、カフェオレを片手に溜め息を吐いた。
確かに、普段自分という人間は蚊帳の外な奴で、人間が不平等だと嘆くのは何様だとは思う。しかし、人間など視点が変われば立場も変わるものだ。
そんなふうに自分に理由付けしながら、臨也は仕事の取引相手を探すと自分に言い聞かせて、窓の外、道を歩く人々をじっと見詰めた。…否、その人々の中から、頭一つ飛び出るような長身の彼を。
そしてその隣を歩く、彼の上司と後輩を。

静雄と臨也は付き合っている。所謂、恋人関係にあった。
――だったら、もっと素直になれたらいいのに。
思えど簡単に叶うはずもなく、喉元にはたくさんの言葉が詰まっては捨てられる。
世の中には、そんな言葉など簡単に言ってしまえる人だっているのに、物事を客観視することに長けた自分は主観となるとどうも駄目だった。

言いたいことはたくさんある。
だけれど、言いたいことほど言えなくなってしまう。
情けないとは思うが、情報を渋るのとは訳が違うのだ。

他の人なんか傍にいてほしくない。
出来るなら、いつ何時でも自分が傍にいたい。
でも言葉にするほど簡単にそんなこと出来るはずがない。彼に仕事があるように、自分にも仕事がある。一人の時間だって欲しくないはずが無い。

…それに、そんなことを言えば、困らせることなど必至だ。
彼は、沸点は一般人に比べてかなり低い。
――もし、その言葉が彼の気に触ったら?我が侭も大概にしろ、と低く唸られたら?
…静雄に嫌われたら、自分はどうすればいいのだろう。
怖い。怖いのだ。
他人を操って、恨まれることすらも楽しむ自分が、たったひとりを怒らせることを、たったひとりに嫌われることを、怖がっている。

全部、静雄のせいだ。
俺がこんな堂々巡りな思考に陥っているのも、――こんなに彼が、愛しいのも。



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