2nd

□ダンデライオン
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「出掛けた?」

次の日。
静雄が臨也の事務所に訪れれば、出てきた部下らしい女にそう言われた。
確かに、嗅ぎ慣れた臨也の匂いに、今日はピンときていないけれど。
けれど、だからと池袋でも臨也の気配など感じなかった。

「何処に?」

「そんなこと知ってどうするの?」

無表情の中に気だるさを交えた声にそう問われ、静雄は口ごもる。
――そのポケットには、昨日結局手にとって離せなくなってしまったネックレスが入っていた。
渡すのも気恥ずかしいが、自分でずっと持っているのも壊しそうで憚られて、渡すためにここまで来てしまったのだ。
そんな目的でここにいるのに、素直に言えるはずもない。
小さく唸って視線を逸らした静雄に、彼女は更に怪訝そうな雰囲気を漂わせて、それからはぁと溜め息をついた。

「暴力団よ」

「…は?」

思考が直結せず、静雄は思わず間抜けな声をもらす。
そんな静雄に目もくれず、彼女は冷めた声で返した。

「目出井組と敵対してる組があるでしょ。その傘下の事務所に行ってるわよ」

しれっととんでもないことを言われ、静雄は思わず停止した。
馬鹿なんじゃないのか。仮にも臨也は人間だ。彼の言う化け物の自分のように並外れた力も桁違いな身体能力もない。
勿論、そんな簡単にやられるとは思っていないし、それなりに身の安全を確保した上でしているのだろう。必要以上のリスクなんか背負う奴ではない。
それが折原臨也だ。分かってる。分かってるけれど。

「――何処だ」

鼓動は静まり返っていた。
低く尋ねれば、彼女は眉間にうっすら皺を寄せながらも返す。

「あいつの行くところなんか知るはずがないじゃない。
ああでも、そこの机の上にある書類の何処かには書いてあるわよ多分。出ていく前に確認してたから」

彼女の視線が示した先にあったファイルを飛び付くように手に取ると、サラリーマンですら追うことが嫌になるような量の文字に目を走らせた。



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