リクエスト

□Necessity
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「ん…?」

臨也は小さく呻きながら、身体を包む柔らかな温度に起き上がる。
回りを見回すと、見慣れた部屋だと気がついた。

「起きたのか」

部屋の主の静雄の声に、臨也は小さく返事をした。


静雄と知り合ったのは、もう5年以上前だ。
高校で共通の友人によって知り合い、静雄と対等に喧嘩できる数少ない人間になった。
そう、まるで良くも悪くも、『必然』のように。
そして、ただの喧嘩相手として、でも時たま気の合う友人として過ごしてきた。

今、見慣れた彼の家にいるのも、偶然喧嘩の最中に臨也が「眠い」とぬかし、
「本気じゃない奴と喧嘩しても楽しくねぇ」と毒々しく言った静雄に連れてこられたからである。


「目冴えたら帰れよ」

静雄の言葉に、臨也は返事をしないままに自身の体温の残る布団から抜け、近場のソファに腰を下ろした。


喧嘩相手。時たま意気投合する相手。
…臨也からすれば、それは仮初めに過ぎない言葉だった。

好き
愛してる

たった数文字の言葉。
なのに、口を開くと途端に詰まりだす、ほんの短い言葉。
そんな痛いほどの想いを、もう随分と長く抱いてきた。
勿論、それは今も、で。

でも、喧嘩相手でいる以上、一生告げることは無いんだろう。


「早く帰れよ」

「…分かってるよ」

低い、冷めたような静雄の声に、臨也はチクリと痛んだ胸を知らんぷりしてそう返した。

もっと一緒にいたいだとか、もっと近くにいたいだとか、そんなのはきっと独りよがりな想いに過ぎない。
解っているから、我が侭は言わないし、言ったらきっと会えなくなる。

だから、せめてもの我が侭に、ソファでもう一眠りしてやろう。
理由を訊かれても、嫌がらせに決まってるだろ、って笑うから。
もっと一緒にいたかったから、なんて、口が裂けても言わないから。

「臨也、手前、また寝ようとしてるだろ、起きろ」

「起きるよ、静かにして」

囁くような声を残して、臨也は瞼を閉じる。
何だかんだ、静雄は優しい。
だから、寝てしまえば、無理に起こしたりしない。


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