リクエスト

□ケロイド
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「手前、臨也ァ!好き勝手しやがって!」

静雄の苛立った声が、頭に響く。
笑顔を作り上げて逃げ惑いながら、ナイフを振るって彼に傷を刻む。

ナイフと同じくらい簡単に、彼に、自分と同じ感情を刻み付けられたらいいのに。

所詮、叶いはしないと解っている。
じりじり。
胸が焦げる。焦がれる。


「シズちゃん、俺は君が大嫌いだよ!」

走りながら叫んだ言葉。
間合いをとって、向かい合った二人は息を弾ませながら、睨み合う。
そして、静雄は言った。


「俺もテメエが大嫌いだ」


解っていた。
行き先の見える返答。
こんな馬鹿げた感情を抱いているのは、俺一人なこと。
分かっていた。


…途端、静雄が目を丸くする。
「何かあったの?」と挑発を交えた声で尋ねると、
静雄は眉間に皺を寄せて、臨也に近づいた。

…足が全く動かなかったのは、
シズちゃんがほんの少し、不安そうにしていたから。


「テメエ、泣いてるぞ」

「…は?」

嘘だ。
そう思いながら頬に触れると、確かに生暖かい感触が指を濡らした。

「これ、欠伸しただけ…」

誤魔化そうと紡ぐ言葉は、再び頬を伝った涙に呑まれた。
静雄の心配そうな顔が、臨也を見詰める。

じりじり。
焦がされる。


「シズちゃんなんか、死ねばいいよ」

そう吐き捨てて、臨也は逃げ出した。
静雄は驚いた声を上げたものの、追っては来なかった。

走れるだけ、走った。
足の力が抜けて、走ることを嫌がる。
肺が痛んで、ぜぇぜぇと喉を鳴らす。

「…は……不覚」

まさか、あの場面で泣くなんて。
嫌い、の会話なんて、幾度となく繰り返した。
それが当たり前だから、今更傷付くことも無いと思っていた。
…なのに、今更泣いてしまうなんて。

自分が思っていたよりも、きっと俺は、深いところまで沈んでいる。
じりじりと焦がされ続けた胸は、治りはしないところまで焼けてしまった。
それはまるで、ケロイドのように。

「勝手に傷付くだけ傷付いて…馬鹿みたい」

それが片想いなんだろう、とも、消えない傷から知った。



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