リクエスト

□ケロイド
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「待て、ノミ蟲ィ!」

大声で紡がれた声に、臨也はわざとらしく耳を塞いで、「何か言った?」と軽口を叩く。
静雄の手元から勢いよく投げられるパイプ椅子。
それを臨也は平然と避け、体育の授業中の校庭に走り出た。

いつもの、喧嘩を超越した喧嘩。まるで、映画でも見ているかのような戦場。
でも、そこは映画の中でもなければ、戦場でもない。
何処にでもあるような、一般的な学校。
そこで、他人からすれば現実とは思えない喧嘩を、日常として二人は繰り広げる。
――まるでそれこそが、自分達の形だとでも言うように。



臨也は、今日も1日酷使した身体をベッドに投げ出した。
小さくバウンドした細身の身体は、清潔なシーツに沈み込む。

折原臨也は、平和島静雄と仲が悪い。
それは学校中に知れ渡っている事実であり、
臨也にとっての、壁でもあった。

臨也は、静雄が好きだ。
人間愛とは違う、胸が焦がされるような感情。
非力な人類に対する愛とは似ても似つかない、一方通行が、酷く切ない感情だ。

“嫌悪”という関係で形作られた臨也と静雄。
その関係を、“恋愛”という感情で壊す。
それは畏怖すら覚えた。

…でも、現在の関係を組み替えるには、自分は非力で、何一つ出来なくて、

『待て、ノミ蟲ィ!』

今日もまた、喧嘩という殺し合いを繰り返した。


「シズちゃんにとって、俺って何なんだろ…」

ふ、と呟いた。
…しかし、臨也は嘲笑を溢す。
結論は“殺し相手”。他には何もない。
解ってはいる。
解っているのに。
それは、じりじりと焦がされた胸を抉った。




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