リクエスト

□甘色メランコリー
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空を切った身体。
死と隣り合わせの駆け引き。



どさり。
臨也の身体は、コンクリートの屋上に引き戻される。
右手は、静雄に痛いくらいに握られていて、
引き戻された勢いで、臨也は静雄の上に舞い落ちた。

静雄の顔は、直ぐ横にある。
緊張からの荒い息が臨也の耳元で煩いくらいに響いて、
ああ、生きてるのか、と思う。
同時に、助けたのか、とも。

「…助けたんだ」

ぽつり、と呟いた臨也。
自殺を試みようとしたにはまるで現実味の無い声に、静雄の怒声が響いた。

「手前、ふざけてるのか!?
俺が助けなかったら死んでたんだぞ!!」

「…は……当たり前なこと言わないでよ」

死ぬ覚悟だった。
馬鹿みたいに想い続けた年月が全て無駄になるなら、消えてしまおうと思っていた。

なのに、こいつは、助けた。


「どうして、助けたの」


「…あ?」

臨也は、静雄の上に馬乗りになると、その胸板を拳で叩いた。
どん、と鈍い音が鳴って、静雄が息苦しそうに僅かに眉を顰める。

「死んだ方がいいって、さっき言ったくせに。
なんで…っ
なんで俺を助けたりなんか…っ
馬鹿静雄、シズちゃん…ッ」

どん、どん、
鈍い音が、臨也の声に重なって響く。
…しかし、パシリ、と高い音が空を裂き、その音は止められた。

「手前は俺が殺す」

そんな、理由。

再び腕を振り上げようとすれば、涙が滲んだ。
ハッとした静雄と視線が絡んで、腕が動かなくなる。
その代わりに、涙が流れ落ちて、静雄の頬に落ちた。



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