リクエスト

□甘色メランコリー
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平和島静雄が、親しそうに女と歩いていた。

そんな噂を耳にしたのは、ほんの数日前。
池袋をのらりくらりと歩いていた時、偶然通りがかったオープンカフェでその声を聞いた。

『もしかしたら、彼女かもしれない。』

そんな考えが過ぎって馬鹿みたいに胸が苦しくなったのは、
喧嘩相手だというのに、静雄が好きだから。

もしそんなことが知られたら、馬鹿にされるに決まっている。
男が好きなこと。
しかも、よりによって静雄なこと。
高校の頃からずっと、馬鹿みたいに想いを寄せていたこと。
そんな屈辱的なこと、知られるわけにはいかない。

それでも、苛立ちすら覚えるほどに気になって仕方が無くて、
冗談めかしてさり気なく探ってやろう、と臨也は静雄を探しに行った。


どうして、シズちゃんは直ぐに俺を見つけられるんだ。
そんな疑問すら思うほどに、臨也は池袋を彷徨い歩いた。
見つからない。諦めようか。
そう思った、その時。

臨也の視線の、僅か十数メートル先。
静雄が、いた。
漸く見つかったことにほっとして、近付こうと、足を踏み出した時。
静雄の隣に人が駆け寄る。
長い髪の、スラリとした女性。
思わず、足が止まった。

その女性の方を見た静雄。
女性が、ニコリと笑うと、静雄も僅かに頬を緩めた。

あの、猛獣が。
親しそうに、笑いかけている。
俺すら知らない、女の人に。
笑いかけている。
あの、猛獣に。

居たたまれなくて、臨也は逃げるように人込みに紛れた。


当たり前だ。
シズちゃんだって男だし、好きな人の1人や2人、出来ていたっておかしくない。
寧ろ、愛に飢えているような奴だ。愛されれば、相応に愛し返すに決まっている。
きっと、キスだって、セックスだって…。

自分で自分を追い込んでいるのは、十分なくらい分かっていた。
でも、思考を拒む感情とは裏腹に頭は勝手に先走っていき、更に胸を苦しめる。
気がつけば、頬は涙で濡れていた。

だから、試すんだ。
シズちゃんが、俺をどう思っているか。
俺が、シズちゃんにとって何なのか。




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